第6話

 ――放課後になった。けれど俺は焦っていた。


 釧路と放課後デートをする約束をしているのに、こんな日に限って先生に荷物運びを頼まれたのだ。


(先生、いくら俺が地味で真面目な生徒に見えるからって、放課後に何も予定がないわけじゃないんですからね? まあ、その予定がある今日が珍しいのだけど)


 そんな事をふと思いつつ、急いでるオーラを出していると、先生に話しかけられた。


「なんだ、明念。やけにそわそわしてるけど。もしかして放課後デートの約束でもしてるのか?」


「え……」


 図星過ぎて言葉にならなかった。


「なんだ。図星か。季節はすっかり冬だというのに。お前にも春が来たんだなー。そのデートの相手、もしかして釧路だったりして。――なんてな。それはないか、ははは」


「え……なんでそれを?」


 何も言っていないのに、まさかの名前が先生の口から出た事に驚いて、つい肯定してしまった。


「嘘だろ? いや、校門で誰かを待ってる寒そうな釧路の姿がここから見えるから。なんとなく言ってみただけなんだけど……それは悪かった。早く行って温めてやれ」


 先生、その発言はややモラハラですよと思いつつ、窓の外を見てみれば。確かにそこには校門で誰かを待っている釧路の姿があった。


(……こんなことならもっと温かい場所で待ち合わせすればよかった!)


 そう後悔しつつ、俺は先生に挨拶をして、釧路のいる校門まで走って行った。





「ごめん! 釧路! 先生に捕まっちゃって……思いのほか遅くなってしまった」


 謝りつつ釧路の元に駆け寄ると、釧路は寒そうに身をかがめながら目を潤ませていた。


「明念のバカ!! もう、帰っちゃったのかと思ったんだからね!! ラインも既読つかないし……なんのために教えたと思ってるのよ!!」


「ごめんって。お詫びと昼飯のお礼も兼ねて、何か温かい夜ご飯おごるから……許して」


 そう言うと、釧路はわざとらしくぷいっとそっぽを向いた。


「うち、そんな安っぽい女じゃないから。……でも、手つないでくれたら許す。明念、温かそうだし」


 そう言って、伺うようにこちらに目だけを向けて、手を差し出してきた。


(何、こいつ……もしかして、いや、うすうす思ってたけど、ツンデレなの?)

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