第5話

 しばらく考え込んで、またまたハッとする。


 やばい、早く着替えて早く食べないと、昼休みが終わってしまう!!



 そう思って慌てて教室に戻って着替え、釧路がくれた紙袋の中身を取り出した。


 すると、そこにはいかにも女子っぽい可愛いメモが入っていて――


『頭、大丈夫? 放課後デートなくなったらイヤだけど、明念の体調悪いのもイヤだから、無理そうだったら無理しなくていいからね。これ、うちのライン。一応教えとく』


 これまたいかにも女子っぽいカラーペンと文字で、そう書かれていた。


 おい、頭大丈夫って、他に言い方なかったのかよと思いつつ。


 もしもウソ告でここまでしてるのだとしたら、逆に尊敬するわくらいに思えてきて。


 俺は昼飯のお礼も兼ねて釧路にラインを送った。


『釧路か? 俺だけど。昼飯、ありがとう』


『俺だけどって、誰よ』


『誰よって、お前はいろんな奴に昼飯配ってるのかよ』


『そんなわけないじゃん、バカ』


『だろうな。ありがとな』


『うん』


 文面だけを見るとそっけないやり取り。けれど同じ教室内で友達の席のそばで昼飯中の釧路の顔を見てみれば、スマホ画面を見ながら嬉しそうににやにやしていて。


「寧々、どしたの、そんな嬉しそうな顔して」


 近くにいた釧路の友達にそう話しかけられていた。すると釧路は。


「彼氏から初ライン来たの!!」


 嬉しそうにまたにやにやとしながら返事をしていて。



 ……マジかよ、おい。俺まで……顔がにやけてくるんだけど。


 俺はそっとにやける口元を片手で隠した。


 するとまた釧路からラインが来て……


『ねぇ、今日の放課後デート……出来そう?』


 そう聞かれたから。


『うん』


 一言だけ返信した。


 すると。


『よかった♡♡♡』


 文末にハートマークが3つもついていて。


 なにこれ、やばい、俺の顔がにやけすぎて溶けそうなんだけど。そう思いつつ、釧路の顔をそっと見てみれば。


 スマホを胸に抱いて幸せそうな表情を浮かべながらぷるぷるとしていて。


「なに、寧々。彼にご執心?」


 釧路は友達にそう聞かれると。


「うるさい。今最高に幸せだから、邪魔しないで♡」


 なんだかにこにこと上機嫌で友達に返事をしていた。


(……おい、待て。今、なんて言った? 初彼って……言わなかった?)


 釧路は自分から告白するのは初めてだと言っていた。けれどまさか……付き合うのも俺が初めてだったなんて。


(……ウソ告とか罰ゲームかもとか、疑ってごめん)


 俺は人知れずそっと心の中で謝るのだった。

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