第4話
マンティコアから放たれた第六階梯相当の火属性魔法攻撃により死を覚悟したD級パーティー”創造の感覚”のグレース、エミー、ノーラたち三人は、魔法を殴り飛ばした男を見て唖然としていた。
A級相当のモンスター、マンティコアが放った第六階梯相当の魔法である。A級冒険者の魔法職やタンク職でも防御にそれなり以上に魔力を必要とするような攻撃だ。それを殴った。
ただでさえ死を覚悟した直後のことである。あまりの意味の分からなさに彼女たち三人は完全に思考停止状態に陥っていた。
一般に魔法は火、水、土、風の基本四属性からなり、それらを組み合わせることで派生した属性が生まれてくる。一部の魔法では属性が付かないようないわゆる無属性魔法と呼ばれるようなものも存在しているが、いずれにせよどの属性でも変わらない基本的な原則が存在する。
それは魔法を行使するためには人間が自身の内に秘める
このような理論的な背景があるからこそ、彼女たち三人はさきほど目の前で見せつけられた自然現象を殴るという理解を超えた意味不明な事象に呆気にとられていた。
そして死を覚悟した極限の緊張状態から一気に弛緩したことにより腰が抜けた三人はその場から動くことができずにへたり込んだまま。そんな三人の様子を見たマンティコアは連続して火属性魔法を放ってくるが、その尽くを彼女たちの眼前の男は拳で叩き落とす。
彼女たちを守るために仁王立ちするその男の装備は冒険者にしては非常に特異な装備だった。多くの冒険者は各職種を象徴するような剣や杖と言ったメイン武器を持ち、防御のための簡易的な鎧や護身具を身につける。
しかしその男は非常に軽装な格好だった。今が初夏とはいえ、街中ならまだしも冒険者でその身軽な格好は無いだろうというような必要最低限の胸当てのみ。そして日に焼けた上半身は鍛え上げられた筋肉が肩から露出するようなタンクトップ型の戦装束。短く刈り込まれた髪は黒から色が抜けたようなアッシュグレー。ズボンはややゆとりのあるような動きやすさ重視のパンツ。
そして何よりも特徴的だったのは、その両腕と拳を肘まで覆う大型の
騎士団所属の重装騎士が全身鎧を身につける際に利用するのであればまだ分かる。しかし冒険者が、しかも武器も持たずに大型の
そんな様子を呆けて見ていた三人に対して
「おい、大丈夫か!?」
マンティコアからの攻撃が少し途切れたタイミングで男から声がかけられた。それをきっかけに現状の不味さを思い出す三人。はっとした三人は慌てて立ち上がろうとするものの、腰が抜けていてうまく立ち上がることができない。
自分たちがうまく動けないことにさらにパニックになりそうになるが、その様子を見ていた男から
「怪我は無いんだな?ならそのままそこで待ってろ!」
と声をかけられる。
「ごめんなさい…!」
なんとか言葉を返したグレースが悔しそうに、そして申し訳無さそうにその男の方をみるが、その言葉を聞いた男は一瞬やや驚いたような表情をした後にニヤッと笑い、
「気にするな!すぐに片付ける!!!」
と一言残してマンティコアに向き直る。それと同時。再びマンティコアから火属性魔法の連続攻撃が放たれるがそれらを全て弾き、殴り、消滅させた。
・ ・ ・
マンティコアと戦闘をしていた三人組の女性冒険者パーティの助太刀に入ってから数分。どうやら彼女たちは大きな怪我を負っていないらしいと確認できたウェスは内心でほっとしつつ、さてどうしたものか?と状況を伺っていた。
彼女たちが動けるようであれば適当にマンティコアの相手をしつつタイミングをみて追い払って一気に離脱しようと考えていたが、どうやら三人娘は腰でも抜けたのか立ち上がることができないらしい。
その様子を見ていたマンティコアもこちらを逃がすつもりが無いらしく、連続して攻撃を放ってくる。いまは単体のマンティコアのみが相手だがあまりにも時間をかけすぎると他のモンスターも寄ってくるかもしれない。
ただでさえこんな場所でマンティコアと遭遇すること自体が異常なのだ。諸々考えた結果、さっさと片付けることに決めたウェスは気合を入れ直す。それに自分の戦闘スタイルを彼女たち三人には既に見られている。今更だろうという諦めも若干滲ませて。
マンティコアからの攻撃が緩んだその瞬間、その特徴的な大型の
「ファルシッド流拳舞術 攻防一体の型
そう小さく呟いた後、一気にマンティコアの元まで踏み込む。ウェスの突然の接近に驚いたマンティコアが爪を振るうが、ウェスはその爪を左手の
そして完全に姿勢が崩れたマンティコアの横っ腹に
「…ふっ!!!!」
全力で右の拳を叩き込む。その瞬間、パンッという乾いた音とともにマンティコアは爆散しウェスの周囲一帯に血の雨が降り注いだ。
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