第9話
ギルドマスターのライラから指名依頼を受けた翌日。ウェスはアラン達”情熱の道”の面々と共に数日間に及ぶ広範囲の調査依頼に向かっていた。
今回のロバーツ子爵と冒険者ギルドアルテア支部の連名の指名依頼の内容は、開拓都市アルテアから東南方向50km以上の地点を中心に「可能であればモンスター異常流入の原因を探ること」となっていた。期間については特に指定なし。そのためウェスとアランは相談の上、1週間程度の広範囲調査を実施することにした。
ウェスもアランも共にアイテムボックスを保持しているものの、今回はちょっとした遠征任務になり装備が多いこと、そして休むための拠点として活用することも踏まえて今回は軍用馬車、および移動用モンスターとして調教されたラプターもロバーツ子爵およびギルドから借り受けていた。
軍用馬車の方は2頭のラプターが引き、それには"情熱の道"のパーティーメンバーの面々が乗り込んでいた。それとは別にアランとウェスはそれぞれラプターに跨り、馬車に先行して進んでいた。
時速50kmに迫ろうかというスピードで荒野を駆け抜けていく2頭のラプターと、後続する2頭立て軍用馬車。アルテアを出立して既に1時間ほど。まもなくA級モンスター出現領域に迫ろうとしていた。
ラプターを乗りこなしながら周囲の様子を見ていたウェスが隣を並走するアランをちらりと見ながら話しかける。
「さすがにラプターでくると早いな。あっという間に50kmエリアを超えそうだ。一度休むか?」
ウェスからの提案を聞いたアランは周囲を見渡し、
「そうだな、このあたりで一旦休もう。仮の拠点も構築した上で更に奥に進むことにしようか」
と応えると二人はそれぞれラプターのスピードを落としていき、それなりに開けた場所で止まる。二人が止まってから数分後、2頭立て軍用馬車も到着しスピードを落として近づいてくる。
軍用馬車の御者を努めていた”情熱の道”のメンバーで戦士職のトーマスがアラン達に声をかけてくる。
「アラン!どうした?休憩か?」
「あぁ。ここで一旦休もう。それから仮拠点を構築しておきたい」
アランとウィルが喋っていると馬車の窓が開き二人の人物が顔を出した。こちらも”情熱の道”のメンバーで魔法職のジューン、そしてヒーラーのシーナだ。
「休憩する感じ?あ、ちょっとジューン、大丈夫?回復魔法をかけようか?」
「…大丈夫。思ってたより揺れるわね、この軍用馬車。…少し休めば治るわ」
どうやらジューンは馬車酔をしたらしい。A級パーティーにでもなると普段から馬車は普通に利用する機会があるのだが、今回のような軍用馬車で、しかもラプターの2頭立てで時速が50kmを超えるような乗り物に乗る機会はそう多くない。
今回彼女たちが乗っているのは便宜上”軍用馬車”と表現されているものの、どちらかというと実態としては戦車や装甲車、兵員輸送車に近い乗り物である。そのため物資の積載量はそれなりにあるものの、一般的な旅行用馬車と比較すると居住性は良くなかった。
その様子を見たアランが
「次はラプターにはジューンが騎乗するか?」
と聞くが、
「いや、大丈夫。役割分担的にもアランが騎乗してた方が良いでしょ。それに此処から先は道もどんどん険しくなるから馬車もそもそもスピード出ないと思うし」
とアランとジューンがそんなやり取りをしている側で、御者をしていたトーマスは馬車から2頭のラプターを外して休ませながら水をやり、同じくラプターに水をやっていたウェスと話をしていた。
「ここまで一直線で来たけど意外に何もなかったな?」
「確かに。まぁ何もないに越したことは無いんだが、ちょっと気合い入れてきたから物足りない感じもする」
トーマスもウェスも気軽な感じでここまでの道中に感じたお互いの感覚を確認。これまでのモンスター目撃例や遭遇事例などから出発前にはアルテアから50km圏内での遭遇戦にも気をつけていた彼らだったが、ここまでは何もなかったことからやや肩透かしを食う感じになっていた。
そんな二人の話にアラン、ジューン、シーナも加わってきた。どうやらジューンも少し気分が戻ってきたらしい。全員が揃ったのを確認したアランが話し始める。
「さて諸君、改めて現状の確認だ。今回はロバーツ子爵とギルドからの連名の指名依頼ということで1週間ほどの調査依頼となっている。我々”情熱の道”の他にも複数のA級パーティーがこの依頼を受けていてそれぞれ別方角をカバーしている。俺たちは本命の東南方向担当だ」
全員が真面目に話を聞いているのを確認したアランがそのまま続ける。
「諸君にも手伝ったアルテア内での聞き込み調査、およびギルマスの方での追加調査の結果からも俺たちが担当する東南方向からモンスターが流れ込んできている可能性が高い。可能であれば俺たちはこのまま更に東南方向に進み、アルテアから約100km地点にベースキャンプを構築し、その後その周囲を調査したい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます