第10話

開拓都市アルテアから東南方向に約50km。既にA級モンスターの出現領域に到達しているアラン達”情熱の道”、およびウェスが今後の方針を再確認していた。


「今回はあくまで調査任務になる。なので遭遇したモンスターの殲滅や、間引きなどは非優先でOKだ。既にロバーツ子爵とギルドからも冒険者向けに普段遭遇しないようなモンスターに遭遇する可能性があるので注意するように通達も出ている。大事なのは異変の原因を把握すること。仮に1週間の期間をおかずに異変の原因を確認した場合は、最低二人は先行してアルテアに帰って報告してもらう。ここまでの話はアルテアでも話をした通りだ。何か質問はあるか?」


アランが全員の表情を確認すると、ひとつ頷きそのまま話を続ける。


「よし。じゃあ続ける。アルテア出発前はこの50km地点に到達するまでに流れたきた高位のモンスターに遭遇するかもしれないという話をしていたが、今回は特に遭遇戦がなかった。というか下位のモンスターにすら遭遇しなかったことを考えると逆に静かすぎて違和感があるんだが、なにか感じたことがある奴はいるか?」


ここまでの道中で全員が感じていた違和感をアランが言葉にする。それを聞いた各々が少し考える様子を見せ、ウェスが口を開く。


「二日前に俺がマンティコアに遭遇したって話はしたよな?」


話し始めたウェスに対して全員が頷く。


「そのマンティコアと遭遇したのがこのエリアからそう遠くないんだよ。それを考えるともしかしたらA級のマンティコアが死んだことでモンスターがこの辺りを警戒して避けているのかもしれない」


なお後日ウェスたちも分かる事になるのだが、このウェスの推測が概ね当たっていた。ウェス達が進んでいた東南方向は50km地点到着までにモンスターに全く遭遇しなかった一方で、東方向と南方向を担当していたA級パーティーはアルテアを離れてからかなり早い段階から高位モンスターと遭遇していた。


これはA級モンスターというマンティコアが討伐され、その血がばらまかれたことで屍肉を漁るような小型のモンスターはその一帯へ近づいたものの、それ以外のほとんどのモンスターは本能的に危険を避けようとしていたためだった。


ただしこれらのことは後にアランやウェス達が開拓都市アルテアに帰還し、ライラや他のパーティーメンバー達と情報のすり合わせを実施した際に判明する事実であるため、現時点ではウェスもアランも確信はなかった。


とはいえ仮説だったとしても現状ではそれ以上に有力な材料も見つからず、アランは一旦この話は危険度が低いと判断して次の話に移ることにした。


「ここまでにモンスターと遭遇しなかったのはウェスの話を踏まえて納得ができるが、逆に言うとここから先はそもそもA級のテリトリーだからな、普通にA級モンスターに遭遇するし、恐らくだが普段以上に遭遇率が高いことも考えられる。まずは東南方向に更に10km進もうと思うが問題ないか?」


アランの話を聞いた全員が気合を入れ直す。それをみたアランも頷きつつ


「なら10分後に出発しよう。ここから先は時速10km程度に速度は抑えて警戒態勢で進む。先行偵察は俺とウェス。トーマス、ジューン、シーナは軍用馬車で後ろから付いてきてくれ」


・ ・ ・


そしてアラン達がアルテアから東南方向に50km地点を超えA級モンスターの出現領域に踏み入ってから十数分後。軍用馬車に先行していたウェスがモンスターの存在に気づく。


「…アラン。前になにかいるぞ」


騎乗していたラプターを止めつつアランに話かけるウェス。


「さすがに気づくのが早いな?俺はまだ全然わからないんだが…。何がいるのかわかるか?」


「いや、そこまでは流石に。だけど多分大物だぞ。俺が先に進んで確認してくるからアランはトーマスたちと合流してから付いてきてくれるか?」


「一人で大丈夫か?」


「ああ、別に敵軍に突っ込むわけでもないしな。強行偵察くらいなら一人で大丈夫だ。いまはこいつもいるしな」


騎乗しているラプターの背をぽんぽんとウェスが叩くと、ウェスの意図を理解したらしいラプターが「キュイ!」と一言任せろと言わんばかりに鳴いた。それを見たアランは一瞬迷ったものの、


「わかった。任せる。俺はすぐにトーマスたちと合流してから続く。もし何かあっても無茶せずにすぐに引き換えしてこいよ」


「わかってる。じゃあ先に行ってるぜ!」


・ ・ ・


アランと別れたウェスはそのまま更に東南方向にラプターを走らせる。アルテア付近は比較的開けた荒野になっているが、この辺りまで来ると起伏に富んだ丘陵地帯となり、さらに大きな岩がゴロゴロ転がっていたりもする。そのため非常に見通しが悪い。


ちなみに更に進むと渓谷があり、だんだんと山岳地帯となっていく。これらの山岳地帯は人類生存圏から見た際に東の果てに存在することから”最果ての山脈”などとよばれており人類の手が一切入っていない天然の要害となっていた。これがあるからこそ人類生存圏と魔族領域は直接的に接することなく済んでいた。


それはともかく。だんだんと強くなるモンスターの気配を感じつつ


「…そろそろか?」


とウェスが呟いた際に騎乗していたラプターも急に足を止めた。このラプター、なかなかに賢いようで他モンスターの気配もしっかりと感じとっているらしい。

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