第3話

ウェスがアランから話を聞いてから数日が経過した。その間、ウェスはいつも通り淡々とモンスター狩りを続けていたが、確かに言われてみれば普段は会わない場所でいるはずがない高危険度のモンスターに遭遇する回数が多い気がする。


「…これは確かに少し変だな」


そう呟きながら違和感を整理しているウェスの目の前にはB級モンスターのジャイアントタートルがしていた。それは既に息絶えており、ウェスはその素材を回収しながらSのアイテムボックスに放り込んでいく。


B級冒険者は決して低いランクでは無いが、それでもS級魔導具はA級冒険者でも購入をためらうほどの価値ある魔導具である。


そんなものをB級冒険者が持っているとバレると色々と面倒なことになるため、ウェスは基本的にはソロ狩りをメインに活動していた。もちろんそれ以外にも色々と事情はあるのだが…


ちなみに冒険者はG級から始まり、F、Eを経てD級で一人前、C級で中堅、B級でベテラン、A級、S級と続く。


C級まではしっかりと経験を積み、それなりの能力があればほぼ自動的に昇級できるがB級以上となると何かしらの実績が必要となる。


ウェスは5年ほど前の27歳の時に開拓都市アルテアに流れ着き、そこからいくつかの実績を積むことでソロ冒険者としては珍しいB級冒険者となっていた。


ただしあくまで珍しいというだけで他にいない訳でもなく、特に目立つような冒険者という訳でもない。「ソロで活動してB級になれるほどに腕はあるが、誰ともパーティーを組もうとしない他所から流れ着いたワケあり」というのが周りのウェスに対する評価である。


もっとも人類生存圏東端に位置するフィアール王国の中でも辺境の開拓都市アルテア自体が場所が場所なこともあり、ワケありじゃない人間の方が珍しい部類となる。


さらに大戦後はロバーツ子爵の開拓方針もあって人口流入が続いており、文字通り日々変化するカオスな都市がここ開拓都市アルテアだ。


一攫千金を夢見る冒険者、貴重な素材を当てにした行商人、新しい都市の利権に食い込みたい商売人、他国で政争に破れた元貴族、そして魔法を失った元天剣など様々な背景の人間たちがその過去を隠して生活を送っていた。


それはともかく。


何にせよアランから聞いたようにモンスターの出現傾向や生活圏に変化が見られるということは何かしらの異常の前兆かもしれない。少なくともウェスが開拓都市アルテアに流れ着いてからの5年間でこのような変化は今までに一度も無かった。


一般にモンスターの生態はそうそう変わらない。逆にいうとモンスターの生態や活動範囲に変化が見られるということは、これまでに存在しなかった強力な個体がどこかから流れてきたか、魔力溜まりがダンジョン化したか。あるいはスタンピードの前兆か。


さらに15年前の大戦時には魔族がモンスターを使役していたこともあり、最悪のケースでは魔族の再侵攻なども可能性としてはありうる。


そのような背景があるからこそアランもまだ確証は無い違和感の段階であっても、ギルドマスターや都市を治めるロバーツ子爵に報告することにしたのだろう。


彼の対応方針や危機感についてウェスは全面的に賛成だし、内容が内容なだけにあまり大事にならないように慎重に情報の確認、共有を進めているアラン達”情熱の道”のメンバー達に対して流石A級パーティーだなと思う。


そんな事を考えながらウェスはもう少し今日は遠出をして斥候の真似事でもしてみるかと荒野を見渡した。


そして丁度その時。彼の視線の先で土煙が上がり、いくつかの魔法陣の輝きが見えた。


「ん?他の冒険者か?」


しばらくその派手な土煙と統率が取れていない魔法陣の輝きを観察していたウェスは、


「…なんとなく落ち着きがない魔法陣だな。もしかしたらピンチかもしれないし念のため確認しておくか」


と呟いて駆け出した。


・ ・ ・


3人の女性からなるD級パーティー”創造の感覚”はその日もいつもと変わらない狩りをしているつもりだった。


グレース、エミー、ノーラの3人が開拓都市アルテアに流れ着いてから約半年。20歳前後の女性3名の冒険者パーティがあっという間に一人前とされるD級まで上がったことでそれなりに知名度もあった。


女性だけということもあり面倒な絡まれ方をすることもあったが、ギルドの面々や気の良い女性冒険者の先輩達に助けられて比較的うまいことやってきている自負もある。


それに安全マージンもしっかり確保した上で余裕を持っての冒険者稼業をしているつもりだった。それなのに。


「なんでこんなところにマンティコアがいるのよ!!!!」


魔法を放ちながら退却の隙を伺いつつグレースが悲鳴をあげる。前衛のエミーがマンティコアを牽制し、中衛のグレースが攻撃魔法を放ち、後衛のノーラが補助魔法で支援する。


三人は突然現れたA級相当のモンスター、マンティコアに混乱しつつも最善を尽くしていた。しかしふとした連携の乱れから前衛のエミーがマンティコアの攻撃によって吹き飛ばされる。


「エミー!!!!」


吹き飛ばされたエミーに思わず駆け寄ってしまったグレースとノーラ。しかしこれが致命的な隙となる。


マンティコアから放たれた第六階梯相当の火属性魔法攻撃が彼女たちに迫り、三人が呆然とその火球を眺めながら死を覚悟すると


「っらぁ!!!!!」


突然視界の横から飛び込んできた男がその火球を

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