第1部 再起編
第2話
後に第一次人魔大戦と呼ばれる大戦の最終盤、伝説となったサンガー平原基地攻防戦から一五年後。帝国暦690年・統一歴1752年。
人類生存圏東端に位置するフィアール王国の中でも辺境の開拓都市アルテアの冒険者ギルドに併設されている冒険者御用達の酒場にて。
一人のB級おっさん冒険者(32歳、独身)がカウンター席で飲んだくれていた。
「…っぷはぁっー!やっぱ仕事終わりのビールは最高に美味いな!!!!」
時刻は19時過ぎ。季節は初夏。肉体労働者である冒険者にとって仕事終わりに飲むビールは最高のご褒美である。しかも本日は戦果も上々。上機嫌にならない理由がなかった。
「相変わらずウェスさんは美味しそうに飲みますね!お代わりはどうします?」
酒場のウェイトレスであるユニがウェスの飲みっぷりと空いたグラスを見て声をかける。ユニに声をかけられたウェスは手元の肉料理の残りの量を確認しつつ、財布の中身を思い出しながら
「ならもう一杯だけもらおうかな?ビールで頼むわ」
とおっさんの常套句を返しながらほろ酔い気分で夕飯と晩酌を楽しんでいた。そんな彼の隣に知り合いの冒険者が腰掛けてくる。
「よう、ウェス。今日は調子はどうだったよ?」
「ん?アランか。まぁ悪くなかったよ。そちらはどうだった?」
ウェスの隣のカウンター席に座ったのは開拓都市アルテアの中でも有名なA級パーティー”情熱の道”のリーダー、アラン。当然彼自身もA級冒険者であり同世代のウェスとは数年来の付き合いがある。
アランがウェスの隣に腰掛けたのをみたユニが二人分のビールを持ってきたため、そのまま乾杯。他愛のない話を少しした後にウェスは気になっていたことを聞く。
「というかアランが一人でここに来るのは珍しいな?お仲間はどうしたんだ?」
そう聞きながらウェスはホール内を見渡すがアランのパーティーメンバーが見当たらない。普段のアランは”情熱の道”のメンバー達と行動をしており、ギルドに併設される酒場に来る際にはほとんどいつも仲間たちと飲んでいる。
そんな彼がカウンター席に一人でやってきたことに違和感を感じたウェスはアランに話を振る。
「あぁ。実は今日はウェスに相談があってな。一人で来た。この時間帯ならここで飲んでることが多いとケイに聞いてたもんでな」
ケイは冒険者ギルドの受付嬢の名前である。”情熱の道”の専属受付嬢をしており、ウェスも何度か話をしたことがある。
「ふーん?端から俺狙いだったわけだ」
アランの話を聞きながらビールを一気に飲み干したウェスは、空になったグラスをアランの眼の前で揺らす。それを見たアランはしょうがないなと肩をすくめ近くで配膳していたユニに声をかける。
「ユニ!俺とウェスにビールをもう一杯!!ウェスの分は俺の奢りで!!」
「はーい!少々お待ちをー!!」
そして運ばれてきたビールで再び乾杯をしてぐいっと飲んだ後、ウェスはアランに尋ねた。
「で、用件は?」
アランの話をまとめるとここ数週間、モンスターの発生率について違和感を感じているとの事。普段は遭遇しない場所で高い危険度のモンスターに数回遭遇したらしい。
”情熱の道”はA級パーティーということもあり他のパーティーや冒険者よりも広い活動範囲をもつ。そのため最初はただの偶然かとも思っていたらしいがそれにしても頻度が高いということで他の冒険者に情報の確認と共有をしはじめたとのことだった。
アラン以外の”情熱の道”のパーティーメンバーも各所の酒場で知り合いに声をかけながら情報収集をしているらしく、ここ冒険者ギルドの併設酒場はリーダーのアランが担当らしい。
アランの話を聞いていたウェスはここ数週間の事を思い出しつつ、
「…確かに普段よりもモンスターの遭遇率が高い気がするな?」
とここ数週間で少し豊かになった財布の中身を思い出しながら答える。ウェスはB級かつソロ冒険者ということもあり”情熱の道”ほど広い範囲を自由に探索するわけではないのだが、それでも確かに言われてみれば普段よりも若干モンスターの遭遇率が高かったような気もする。
「ただアランに言われて今はじめて意識したレベルだな。俺がソロで回ってるエリアはそこまで変化は無い」
「そうか、ありがとう。それが分かっただけでも助かる」
「この件はギルドマスターの耳には入れてるのか?」
「あぁ、”情熱の道”からの正式な報告ルートでギルドマスターには報告済みだ。ロバーツ子爵にもギルマス経由で報告が行く手筈になっている」
ロバーツ子爵はこの開拓都市アルテアを治める貴族であり、爵位はそこまで高くないもののフィアール王国の中でも新進気鋭の若手政治家として名を馳せていた。
「ほう?結構マジなんだな。分かった、じゃあ俺も協力しよう。なにか俺の方でできることはあるか?」
アランの手際の良さを聞いたウェスはこの件が結構マジなやつと認識し、少しだけ態度を真面目にしてアランに確認する。その様子を見たアランは手元の空になったグラスを少し揺らすと
「じゃあ早速。一杯奢ってもらうとしようか。ひとまずこれでチャラな」
と言ってニヤリと笑い、それを見たウェスは肩をすくめてユニを呼んだ。
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