第13話
アースドラゴンを討伐した後にアラン達と合流したウェスは再び東南方向に向けて進み始めた。その後もたびたび主にA級からB級のモンスターに遭遇することになり、ウェスはアラン達と協力しながらそれらの魔物を一掃していく。
そして開拓都市アルテアを出て約半日。すでに空は茜色になっているタイミングで彼らはその日の野営地を決めた。アルテアからは東南方向に約70km地点。最初の50km地点までは当初の想定よりも早く到着していたが、その後の20kmでモンスターと連戦につぐ連戦に臨むことになったため、概ね当初予定通りの場所に野営地を設置することになった。
各自が天幕を張ったりモンスター避けの魔導具を設置したり、竈を組んだり水やら薪やらを集めて野営の準備をしているとあっという間に日が暮れていく。野営の準備と並行して食事の準備も進めていたウェスたちは、ちょうど日が暮れたタイミングで全員で焚き火の周りに車座になりながら夕食を取ることにした。
馬車に積んでアルテアから持ってきた食材や、現地調達したモンスター肉やら野草やらで作った冒険飯を全員でのんびり食べながらその日のあれやこれやの話になる。
なお食事は主に”情熱の道”の魔法職でウェス達と同世代のジューンが作ってくれていた。それを手伝うアランの様子を見たウェスは「邪魔せんとこ」と内心で思いながら薪集めに行ったり、ラプターの世話をしたり、その他の細々したことをしていたことは余談である。
「にしてもやっぱりウェスは強いな。まさかあの短時間でアースドラゴンを仕留めるとは思ってなかったよ!」
戦士職のトーマスが陽気な様子でウェスをおだててくる。それを聞いたヒーラーのシーナも
「ほんとにね。なんなら前よりも強くなってるんじゃない?」
と話を振ってくる。まぁ他に話すこともないかと思ったウェスもその話題に付き合うことにして
「まぁ確かにアルテアに来た頃よりも今の方が調子はいいかもな。ちゃんとトレーニングとかもしてるし。筋肉は裏切らないらしい」
とどうでも良い話をし始める。その発言をきいたアランは少し吹き出しながら
「ははっ、何だよ筋肉は裏切らないって!しかし本当に最初に合ったときとは大分雰囲気も変わったよな。アルテアにも慣れたか?」
アランは普段絶対にこの手の少し踏み込んだような話はしないタイプで、人との適切な距離感を保つ男だ。しかしタイミングを見てはその周囲の人間を気にかけている。実際にウェスにもこうして少し繊細だが、温かみのある言葉をかけてくる。こういうところがアランが人望がある理由なんだろうな、とウェスはふと思った。
「あぁ、お陰様で。まぁアルテアに来るまでにも色々合ったしな。流石に5年もここにいると少しは慣れるよ」
アランからの言葉に苦笑いしながら返したウェスの様子を見たアランは「それはよかった」と言いながらも
「前々から気にはなってたんだが、ウェスの戦い方についてももう少し聞いてもいいか?これから先はさらにモンスターとの遭遇戦も増えそうだからできればもう少し戦力を正確に把握しておきたいんだが…」
冒険者の戦い方やその能力はそれ自体が極めて重要な情報だ。そのため多くの冒険者、とくにB級を超えるような冒険者達はあまり大っぴらに自身の手札を公開することは無い。さらに開拓都市アルテアの場合には過去を詮索しないという流儀もあったため他の都市と比較しても冒険者同士の交流には気を遣う。
ウェスとアランたちにしてもこれまでも何度か共に依頼を受けたこともあれば、普通に酒場で飲んだりはするもののお互いが戦闘において切れるカードは伏せているものも多い。アランにしても、ウェスがソロで活動していることから基本的にはウェスから開示されるまでは触れるつもりもなかったことだが、今日のモンスターの出現傾向を見るに今後はさらなる激戦が発生する可能性がある。
そういった事情も察していたウェスは一つ頷くと、
「あぁ、話せる範囲で話しとくよ。まずは前提として俺は魔法が使えない」
それを聞いた魔法職のジューンが質問してくる
「まずそこから前々から不思議だったのよね。もし話せたらで良いんだけど、あの戦い方で本当に魔法を使ってないの?どう見ても身体強化系のバフを受けているようにしかみえないのだけど?」
同様の疑問を持っていたらしいアラン、トーマス、シーナも興味深げにしている様子を見たウェスは、さてどこまで話をしたもんかな?と思いながら
「んー、わかった。少し正確に説明すると、俺は魔法が使えないというよりは魔法を放出することができない。魔力回路に不具合が起きてるらしくてな」
ヒーラーのシーナが首を傾げながら質問を重ねてくる。
「確かに魔法は魔力と魔力回路の両方が機能していないと使えない。それは分かるけどもしかして魔力回路を使わずに直接魔力で何かしているの?」
「さすがだな、そういう事になる。魔力自体は俺にもあるからな。だから魔力回路は壊れてても、自身の体全体を一つの魔法陣のように見立てて体内で魔力循環させているって感じだな」
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