第12話
ラプターに騎乗したままウェスがアイテムボックスから取り出したのは身の丈を遥かに超える全長三メートルにも及ぼうかという三節棍。
普段のウェスは両手に装備した
魔法を失った後にウェスが修練の果てに手に入れた新しい力、ファルシッド流拳舞術は単なる格闘技や武術ではない。戦場での実戦の中から生まれた、まさに文字通り戦うための力である。
リーナス帝国をはじめとして人類生存圏の多くの国家はそのほとんどが魔法が主戦力となっており、軍や冒険者などのほとんども魔法を使う。そのため戦いのための基本的な技術は魔法の運用を大前提として構築されているが、魔法を失ったウェスはそれらの技術体系からは弾かれてしまった。
そんな彼があてもない流浪の旅の中で出会ったのが”弱者の盾“”はぐれ者達の希望”などと一部で呼ばれていた非常に小さな流派のファルシッド流拳舞術だった。
その出会いや修練はまたいずれ然るべき時に語られるとして、ファルシッド流拳舞術には当然騎乗を想定した戦い方も存在している。
「ファルシッド流拳舞術 進軍の型 鉄騎一式」
ラプターを走らせたまま三節棍を構えたウェスが小さくつぶやく。別に毎度技名をつぶやく必要は無いのだがこれはただ単にウェスの気分の問題だ。もともと魔法を得意としていた際には詠唱がその威力を向上させていたことから、それの名残のようなものである。
いずれにせよ足でしっかりとラプターの鞍を挟んだウェスはそのままラプターに足で合図をし、
「いくぞ!!!!」
そうラプターをけしかけると一直線にアースドラゴンに向かって吶喊させた。今までチョロチョロと一定の距離を保ちながら逃げ回っていた獲物が急に向かってきた事に若干驚いた表情を見せたアースドラゴンだったが、落ち着いて土属性魔法をばら撒いてきた。そして
「はぁっ!!!!!!」
飛来した大小様々な石礫を三節棍を振り回し、弾く、弾く、弾く。ウェスの驚異的な体幹と技術、そしてラプターの絶妙なフォローによりなし得た技だった。
放った魔法攻撃が全て弾かれたアースドラゴンは今度こそ驚愕に目を開く。そしてウェスはラプター上で三節棍を旋回させたまま、勢いをどんどん付けていき一気にアースドラゴンに肉薄する。そしてそのまま勢いを落とさず、
「ふんっ!!!!!!」
その三節棍をアースドラゴンの横っ腹に叩きつけた。”ドンッ!!!!”という非常に鈍い音を響かせながら20メートルの巨体が吹き飛ぶ。しかしそこは流石にドラゴン種。マンティコアのように一撃で爆散することはなかった。ウェスはそのままさらに三節棍の勢いをつけつつ、ラプターを旋回させて再びドラゴンに近づき、
「もういっちょ!!!!」
と力の限り三節棍を叩きつける。更に今回は逃さないとばかりに
「うぉおおおおおおお!!!!!!!」
三節棍で殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。そのいつ止むともわからない連撃を食らったアースドラゴンが絶叫をあげるが、
「これで終わりだ!!!!!」
と叫んだウェスが、アースドラゴンの頭に三節棍を全力で叩きつけた。”グシャッ!!!!”という若干水っぽい破砕音がした後、そのまま頭を地面に叩きつけられたアースドラゴンは頭蓋骨を陥没させ、しばらくピクピクと動いていたがやがてその動きも止まった。
最後まで油断なく残心を残して警戒していたウェスとラプターだったがアースドラゴンが息絶えた様子を確認し、
「…ふむ。これでよし。お前もご苦労さん、ナイスアシストだったぜ」
そう言いながらラプターの背中をぽんぽんと撫でた。
・ ・ ・
アースドラゴンを討伐したウェスがアラン達の方へ向かおうかとしたまさにそのタイミングでアラン達がやってきた。
「ウェス!無事か!?」
ドラゴン種らしきモンスターの咆哮を聞いていたアラン達が慌ててやってきていたがウェスの直ぐ側で沈黙しているアースドラゴンの亡骸をみつけ
「…全然大丈夫そうだな?」
「あぁ、問題ない。こいつもいい仕事をしてくれたよ」
「騎乗したままやったのか?さすがだな」
「ライラが用意してくれたこいつが良かったんだよ。で、そっちはどうした?土煙がこちらからは見えてたんだが」
「あぁ、俺たちの方もモンスターに遭遇してな。マンティコアの子供が複数。もしかしたらお前が狩ったやつの子供とかかもしれないな」
「…そうか。で?全員ぴんぴんしてそうだし馬車も無事みたいだが大丈夫か?」
「あぁ。こちらも問題ない。遭遇戦になったから少し初動は慌てたけどな。これくらいなら余裕さ。こちらの馬車もラプターも問題ない」
お互いの無事を確認したウェスとアランたちはその場で一旦休憩をし、お互いの装備の損耗なども確認したのち各所に散らばっていた素材や魔石の回収まで済ませた後、更に奥地まで進むことにした。
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