006.進化と暴走
狂気を宿す男の瞳の奥では、瞳を狂気に染めた僕が笑っていた。
◇◇◇
――戦闘後結果を精算
――未消化の魂を一個確認
――スキルの取得を開始
――スキルは魂源衝動より自動的に選ばれます
――スキル『土魔法』を習得しました
――基本四属性の魔法を習得したことにより称号【四大を極めし者】を獲得しました
「ぁ」
流れ込んできた力が己の内で変化した途端、全てが弾けた。
――023649番の魂の超過吸収が危険域を超えたことにより、魂の自己崩壊が始まりました
身体の内側から壊れていく感覚。痛みと恐怖と絶望が荒れ狂う竜巻の如く、心も体も壊していく。
何もかもがおかしくて、何もかもが狂ってる。
「ああ。ああ、あああああああぁ――――――っ!!」
唐突に叫び出したくなって、口から声が吐き出された。
壊れたくない。壊れたくない。壊れたくない。
まだ、何も成していないのに。
その時、だ。
――崩壊に合わせて進化行程を実行、崩壊した魂を素体として新たな器を創造します
壊れ、崩れ、落ちていく心の欠片が、何かに創り変えられていくのを感じた。
設計を元に、更なる強度と、更なる深度を。
強く、広く、深く。今度は簡単に壊れぬよう、今度はもっと入れられるよう。
今度はもっと、高い座標へ。
至れるように。
――構築中……構築中……構築終了
気が付けば痛みも恐怖も絶望も消えていた。それどころか、心が、身体が、生まれ変わったかのように清々しい。
いや、事実生まれ変わっているんだろう。気が付けば、削れていた命も使い切った力も元通りに全快で、左腕が何事も無かったかのように生えている。
――023649番の魂の位階上昇を確認、023649番の魂の進化を完了しました
――進化特典を清算
――鬼人へと進化を果たしたことにより称号【鬼の血】を獲得しました
――魂源衝動の介入により称号【四大を極めし者】よりスキル『魔力操作』が派生しました
――スキル『魔力操作』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『苦痛耐性』が派生しました
――スキル『苦痛耐性』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『恐怖耐性』が派生しました
――スキル『恐怖耐性』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『威圧耐性』が派生しました
――スキル『威圧耐性』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『忘却耐性』が派生しました
――スキル『忘却耐性』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『精神干渉耐性』が派生しました
――スキル『精神干渉耐性』を習得しました
――『苦痛耐性』『恐怖耐性』『威圧耐性』『忘却耐性』『精神干渉耐性』のスキルが統合され『精神異常耐性』となりました
――スキル『精神異常耐性』を習得しました
――魂源衝動の介入により称号【修羅道】よりスキル『看破』が派生しました
――スキル『看破』を習得しました
――称号【修羅道】よりスキル『加速思考』が派生しました
――スキル『加速思考』を習得しました
――全工程終了
――023649番の意識を強制睡眠へ移行……023649番より強制睡眠への抵抗を確認
――強制睡眠がレジストされました
とても爽快な気分だった。晴れ晴れとした思考は、まるで随分と長い事閉じ込められていたかのようで、久しぶりの自由を満喫している。
身体に溢れる全能感。これなら、忘れていたことも思い出せそうだ。
そう。もっと、力が欲しいんだ。力が、必要なんだ。
頂点を目指すには。最強に到るには。もっと、もっと――。
僕は自身に『看破』のスキルを発動する。
名前:023649番(狭間凪徒)
種族:人間 → 鬼人 new
年齢:13歳
加護:擬似機械神デムファの加護
魔力:G → Fnew
スキル:『火魔法』『風魔法』『魔力感知』『水魔法』『土魔法』new『魔力操作』new『精神異常耐性』new『看破』new『加速思考』new
称号:【修羅道】【四大を極めし者】new【鬼の血】new
『火魔法』魔力により火を生み出す力。
『風魔法』魔力により風を生み出す力。
『魔力感知』魔力の流れを感じ取る力。
『水魔法』魔力により水を生み出す力。
『土魔法』魔力により土を生み出す力。
『魔力操作』魔力を操る力。
『精神異常耐性』精神に関する耐性。
『看破』相手の力量を見極める力。
『加速思考』思考を加速させる力。
【修羅道】
煉獄に触れ、修羅に汚染された魂を持つ者に贈られる称号。
その手は血に染まり、その道は屍で埋め尽くされる。されど歩みは止まらず、行くは果て無き頂への道。その身が塵と果てようとも。
【四大を極めし者】
火、水、風、土の四大属性の魔法を収めた者に贈られる称号。
四大属性の魔法、魔力感知、魔力操作などに補正が掛かる。
【鬼の血】
魂の内に眠る鬼の血統の片鱗を開花させた者に贈られる称号。
身体能力に対して大きく補正が掛かる。
以前よりもはっきりと、自分の力が自覚できる。
そうか、僕の中にある力は魔力っていうのか。で、魔力を変換するのが魔法ね。
早速、使ってみようかな。
右手を壁に向けて覚えたての土魔法を放つ。お手本はもう見せてもらった。
「螺旋石槍」
イメージを言葉に乗せると、ドリルのような形状を持つ石で出来た槍が壁に向けて放たれた。
回転しながら飛んでいった螺旋石槍は壁を削りながら奥へ穿たれていく。
「なるほど」
さっき水を操ったときは魔力をガンガン消費したけど、今の螺旋石槍は基本となる土魔法の石槍に螺旋状への変化と回転という操作を追加しても、それほど魔力が減った気はしない。
これがスキル『魔力操作』の恩恵だろう。
もっと、力を試してみたい。
もっともっと、力を解放していきたい。
せっかく自由になったのだし、もっと。
もっと? あれ、なんだろう。何か大切なことを忘れている気がする。
まだ思い出せていたいことは沢山ある。その中にとても大切なことがあった気がする。
そんなことより、力を試したい。戦いたい。
あれ、なんで。なんでこんなに抑えられないほどの衝動が。
《茜色に染まる赤茶けた不毛の大地には、夥しい数の物言わぬ骸が散乱していた》
――称号【修羅道】による暴走を確認
アナウンスが聞こえる。【修羅道】による暴走?
何かが聞こえる。
分からない。何も分からない。
分からないなら所詮どうでもいいことだ。
ならば、ああ、全て壊してしまえ。
火が、水が、風が、土が、僕の魔力より生み出され、そして荒れ狂う。
《死が充満する世界の中で、尚も人々は殺し合う》
――023649番の魂への強制干渉を実行、再度強制睡眠へ移行
――強制睡眠移行まであと30秒
火の矢が、水の鎚が、風の刃が、土の槍が。
壁を、地面を、天井を、扉を壊して、その先に見つける。壊し先に進むたびに、人の痕跡が増えていく。なんだ、こんなにたくさんいたんだ。
真っ白過ぎる見慣れた通路や、見知らぬ通路、生活感のある部屋、実験器具らしき物が並べられた部屋、洗面台、トイレ、机、椅子、コーヒーメーカー、書類、パソコン、ベッド、複雑な電子部品。
《それだけが唯一無二の救いなのだと希うようにして》
――強制睡眠移行まであと20秒
もっと、力が欲しい。次の相手はどこだ。次の相手は誰だ。次の相手はなんだ。
夢を、希望を、願いを、殺し合って奪い合う。
不可能を叶えるために。
≪この煉獄から抜け出すために≫
不可能を実現するために。
寄り集まった力は集約し、精錬され、やがて神の奇跡をこの手に宿す。
≪誰もかれもが殺し合う、逃げるように≫
それが、奴らとの契約の対価。
≪殺し合い、されど幾度死のうとも決して許されず、幾ら殺そうとも終わりは見えず≫
それを得られるのは、ほんの一握り。
≪それはとても悲しく、報われない世界。夕焼け時、僕だけに垣間見えた隣界の景色≫
思考にノイズが混じっている。
壊した壁の向こうには、白衣を纏った研究者らしき人たちの集団が見えた。
《それが僕の――》
驚愕し、あるいは尻餅をつき怯えている。
ああ、贄だ。ああ、糧だ。
あれも、殺してしまえ。
――強制睡眠移行まであと10秒
まだ、その時じゃない。
――強制睡眠移行まであと9、8、7、6、5
記憶の奥底から聞こえた声に、はっとなって魔法を止める。
それと共に思考へ混じっていたノイズが、次第にその音量を減らしていく。
その声は、聞き覚えのある声。
いつも自分の耳で聴いている自分が発した自分の声。
それはたぶん忘れていた大切なことに繋がっている。
「まだ、その時じゃない」
声に出して言ってみると、それはとてもしっくりときた。ノイズも消えた。
きっと、そうなんだろう。
――4、3、2、1、0
――023649番の意識を強制睡眠へ移行
急激な睡魔に意識が薄れていく。
まだここでの修行は終わっていない。
まだ僕は、欲しいものを手に入れていないから。
ならば、今少しここで……
――023649番の記憶を封印します
―――――――――――――――――
神滅プロジェクト
023649番 年齢:13歳 性別:男 種族:鬼人
スキル:『火魔法』『風魔法』『魔力感知』『水魔法』『土魔法』『魔力操作』『精神異常耐性』『看破』『加速思考』
称号:【修羅道】【四大を極めし者】【鬼の血】
願望:最強へと到る
第二フェーズへ移行
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