手段を選ばず最強を目指してみた

やみあるい

001.戦闘実験No1

 僕の願いは絶対に叶わない。僕はそれを知っている。


 ◇◇◇


 ――対象、023649番

 ――記憶の封印を確認

 ――戦闘能力拘束解除

 ――意識、覚醒


 ――おはようございます



 目が覚めた。

 ここは白いベッドの上。周りは白い壁に囲まれていて、天井も真っ白だ。

 起き上がり辺りを見回すと、窓は無く扉が一つだけある。勿論真っ白だった。

 身体を回し、床に足をつける。床ももはや語るまでも無く、白一色。

 ここはどこ? 僕は、一体だ……


 ――行動目標、扉の先へ


 何かを考えようとしたのだけれど、違う思考がいきなり脳裏に押し入ってきた。

 考えようとしたことは、どうやらそれに押し出されて、どこかへ消えてしまったようだ。

 だから僕は立ち上がり、扉まで歩いていくと、ドアノブに手を掛けて扉を開いた。


 白い一本道の通路が先へ続いている。

 この先が気になる。なぜだろう?

 僕は微かな違和感を覚えつつ、真っ白な通路を進む。


 暫く歩くと、ようやく白以外の色が現れた。

 それは茶色と鈍色の大きな扉だった。木に鉄の枠がつけられている扉だ。人が並んで四人は通れるような大きさをしている。

 ただし、そこにはドアノブも鍵穴も無い。


 ――扉を開きます


 扉の前に立つと、扉は上にスライドして開いた。

 そして僕は扉の向こうに足を踏み入れた。



 薄茶色の乾いた土が敷かれた地面だ。所々に申し訳程度の木と草が植えられており、四方を囲む壁の向こうから流れてくる水が、川と小さな湖を形作っている。

 自然という形を聞いて、人が簡単に作り上げたような箱庭チックな場所。

 空は青色に塗られた天井に、白い雲の様なものと、太陽代わりの眩しい照明。

 僕が部屋の中でそれらを観察していると、背後の扉がダンッと音をたてて閉まった。


 ――023649番の入室を確認

 ――023646番の入室を確認

 ――室内全域に特殊戦闘領域を展開


 僕が入ってきた扉とは反対側にも同じような扉があり、気が付けばその前に人が一人立っていた。

 白い大き目のシャツと、白いハーフパンツを履いた人。遠くて性別は定かではないけれど、歳は12、3歳くらいだろうか。

 僕が着ているものと同じ服だ。

 歳もそう変わらない気がする。

 僕は困惑する。これは一体なんだろう?


 ――戦闘、開始


 カチリと何かが切り替わるように、視界が一気に明瞭になっていく。それと同時に思考も綺麗に澄み渡って、ただ一つの目標が頭を占める。


 殺せ。


 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。


 ああ、殺そう。

 僕は全速力で走りだしていた。

 相手も同様に走り出している。

 相手との距離はぐんぐんと近づいていき、あっという間に間近となった。

 腕を振りかぶる相手。腕を振りかぶる僕。

 思考は全て相手を殺すことに集中している。

 でも僕は戦う術を知らないから、これから始まるのは最も原始的な闘争だ。


 相手の顔面に僕の拳が届いた瞬間、自分の顔に衝撃が訪れる。

 僕は相手を全力で殴った。そしてきっと相手も僕を全力で殴ったのだろう。

 ガツンッと襲ってきた衝撃は、僕の脳を激しく揺らした。


 痛い。痛くて気持ち悪い。


 揺れた視界に立っていられず尻餅をついた。


 痛い。痛い。殺せ。痛い。殺せ。痛い。殺せ。殺せ。痛い。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。


 変わらずに続く感情。けれど、それを塗り潰していく思考。

 僕は思考のままに立ち上がる。ふらつく身体に力を込めて、立ち上がりかけた相手の頭へ全力の蹴りを放つ。


 当たった。でも、技術も何もない不安定な全力の蹴りによって、またも僕は尻餅をついた。

 でも確実に蹴りは当たった。

 僕が視線を上げると、相手は地面に横倒しになっていた。

 ピクリと動く相手の指。倒れ伏した相手が顔を上げ、その目と僕の目が合った。


 まだだ、まだ終わってない。


 もう一度立ち上がり、相手に近づきその頭に上げた右足を踏み下ろそうとしたとき、相手の手が僕の左足を掴んで思い切り引っ張った。

 まだ揺れる頭のせいでバランスを崩した僕は、右足を踏み下ろすよりも先に転んでしまった。


 相手がふらふらと起き上がり、僕の顔目掛けて蹴りを放ってくる。

 咄嗟に右腕で顔をかばったが、相手の蹴りは右腕ごと僕の顔へと突き刺さった。

 ぐわんぐわんと頭が揺れる。胃の底から吐き気がこみ上げてくる。


 右腕は動かない。

 もう一度、相手が蹴りを放とうとしている。

 左腕を動かして、もう一度顔の前に持ってくる。

 蹴りが当たるその瞬間、僕は左手で相手の足を思い切り掴んだ。

 蹴り飛ばされながらも、僕は掴んだ相手の足を離さない。

 むしろ思い切り引っ張った。

 振った足の遠心力も手伝って、相手は盛大に後ろへとすっ転んだ。


 あれは頭からいった。

 僕は無理やり身体を起こして、ふらつきながら相手の身体へと近づいて。

 今度こそその顔に思い切り右足を踏み下ろした。

 一度、二度、三度。

 右腕は動かない。左手も痺れている。

 頭はグラグラ揺れていて、鼻からはぽたぽたと赤い血が滴り落ちている。

 でもそんなことどうでもいい。

 僕は何度も何度も何度も、相手の顔面へ右足を振り下ろし続け。


 ――023646番の死亡を確認

 ――023649番の生存を確認

 ――戦闘終了


 ふっ、と僕の思考を染め上げていた殺意は消え去った。


 ――023646番の魂が023649番へと吸収されます


 呆然と立つ僕の身体に、何かが入ってくる。

 それは死んだ相手から流れてくるようだった。


 ――戦闘後結果を精算

 ――未消化の魂を一個確認

 ――スキルの取得を開始

 ――スキルは魂源衝動より自動的に選ばれます

 ――スキル『火魔法』を習得しました

 ――スキル『火魔法』を習得したことにより魔力を獲得しました

 ――全工程終了

 ――023649番の意識を強制睡眠へ移行


 その時、急激な眠気が襲い掛かってきて、僕はそれに抗えずその場で意識を失った。


 ――023649番の記憶を封印します




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神滅プロジェクト

023646番 年齢:12歳 性別:男

スキル:なし

願望:死者の蘇生

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