第6話

正式に仕事を始めた。

職場となったコンビニのフードコートでジュースをちびちび飲みながら仕事が来るのを待つ。

始めた仕事というのは、簡単に言えば何でも屋だ。

僕の長所と言えるたくさんの魔法はこの何でも屋の仕事にとても向いていると思ったからだ。(逆にどんな仕事にも向いていないとも言える。)


先日の件で、コンビニのフードコートに長時間いても良い(警察が来たらさりげなく去るが。)と許可をもらい、魔法とコピー用紙で町中にチラシを貼った。


そうして、三日が経った。

そう!三日だ!


いや、物珍しさに見に来ることはあったが、依頼はなかった。

視線?いやぁ、孤児院時代のメンタルを舐めないでください。ね?


「お客さん、来ないねぇ。」

「そうですよ。ほんと、どうすれば良いですかねぇ?」


お客さんの数が少ないせいか店長が話しかけに来た。何かアドバイスでもくれるのだろうか?

「まぁ私としてはお客さんの数が君のおかげで増えているから良いんだけどね?」

「俺は招き猫かなんかですか?」


そうだったらお供物か何かくれないだろうか......招き猫にお供物って何だよ?


「あの…すみません…」

視界の端から声がする。


もしかして、依頼人だろうか!?


すぐさま店長を押し退けて依頼人らしき人に声をかける。

「はい!依頼でしょうか!」

「は、はいそうです。うちの猫を探して欲しくて…」


初めての仕事は、同年代の人見知りのようなの女の子が依頼人のようだ。

なるほど、動物探しか。

「わかりました。猫の写真などはありますか?」

「はい…こちらです…その、お値段のほどは…?」


値段か…うーんこれといって決めてはいない。動物探しという仕事自体が少ないことを考えて2万円…くらいだろうか?

だけど、目の前のこの子が払えるとは思えない。

「いくらまでなら、払える?」

「…2000円くらいなら。」

あ、この子嘘ついた。

今までたくさんの子供を相手にして来たのだ。そのくらい分かる。

「よし、とりあえずお店を出ようか。君の名前は?」

「…やや。阿倍野やや。」



____________________


近くの誰も居ない公園に行き、お互いにベンチに座る。

ややは少し困惑した顔でベンチに座ったが、これから何をするかは理解してないようだ。

「…えっと、何するの?」

「仕事を受けるなら、しっかりとしたくてね。」

(初めての仕事だし。)

『お互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法』を発動してお互いの間に天秤を出現させる。

一瞬驚いたややだが、魔法だと理解すると少し羨む目で見てきた。


「ねぇ、それってもしかしてアタリ?」


アタリというのは数ある魔法の中で実用性がある魔法のことだ。


これらの魔法がある人間は魔法センターに登録するのが保護者の義務だが、おあいにく様、例のクソ院長のおかげでこの魔法はデータベースに登録されていない。(“詐称”だけは保護された後に登録された。)


「まぁ、うん。僕の中では当たりだよ?」

「?」

そのまま続ける。


「この魔法はお互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法なんだ。」

天秤はこちらに傾く。

魔法というのは詳細だけでも価値が発生する。

ましてや世の中で言われるアタリの魔法の詳細ならさらに価値が上がる。


そして、魔法の価値をしっかりと理解している子なら特に。


「?!」


気づいたのだろう。

先程自分が言った嘘がバレたということを。


「そういうわけだからさ、さっさと取引して猫ちゃん見つけよう?」

「…ごめんなさい。」

「いいよ?まぁかかるお金が少なく済む方がいいのはわかるしね!」


さて、取引といこう。

「この魔法に関する事を他者に教える事が出来ない。これが先程の魔法の開示の対価として払ってもらいたいんだけど、良い?」

「…わかった。」

そういうと天秤が動き、元の位置に戻る。

ここからだ。


「僕は君の猫を見つけて君に渡すした場合、僕に何をくれるのかい?」

この子にとってその猫の価値はよくわからないが、それでも大きな価値となっているはずだ。

そう、文字通り大きな価値に。


「…貯金箱の1万円をあげる。」

天秤はほんの少しだけ傾く。が、この程度の対価じゃ意味はない。

そもそも、彼女はどうやら猫と1万では猫の方が重要だと思っているせいか、お金ではあまり天秤の重しにはならない。


「対価は何だって良いんだ。そう、魔法だってね!」

「…魔法って取引ができるの?」

「できるさ、少なくとも僕はね?」


少し考えるやや。

しばらく経った後に、ようやく口を開いた。

「…私が持っている魔法の1つをあげる。魔法の情報も開示するわ。」


あちら側に天秤は傾いた。

まぁ、魔法の価値は僕の中でも大きいからというのもあるんだろう。


「…どうやら、貰いすぎているようだ。元々初めの二千円で良いよ?」

「わかった。」


天秤は釣り合い、魔法が成立する。


「少し下がってて。」

ややを離れさせて猫の写真を取り出す。…うんうん、あらかじめ作っておいてよかったな。


「『他の魔法に干渉する魔法』。」

ポケットから折りたたんでた町中に貼ったチラシを取り出す。

チラシに対して手をかざし、書かれている文字列を

「え。」

ややが動揺しているが気にしない。

「『対象の画角を魔力的に区切る魔法』。」

写真に対して魔力で線を作り、区切る。ちなみにこれもアタリの類の魔法だったりする。(マジで区切るだけで何の意味もないが。)


「『対象の画像を粗くして採取する魔法』、そして重式『付与』!」

多少粗いが、一目でどんな猫かわかるようになった。


「あの、それどうなって…」

「町中の貼ってあるチラシとこれを連動させたんだ。今、町中に猫の張り紙がされているよ。まぁ、これからが本番なんだけどね。」

「ほ、本番!?」


これで町中のあらゆる人にこの仕事を再認識させた。

あとは魔法のオンパレードだ。

「『魔法を持続面で制限する魔法』『魔法の効果範囲を余っているリソース分だけ向上させる魔法』重式『索敵』」

範囲は町中。

『索敵』は本来なら15m以内にしか効果がないが、無意味に制限し、空いたリソースで魔法そのものを底上げする。

「…ん、いた。すぐそこだ。行こう。」

「え、え、え?」


公園を出て右に曲がり、商店街を突き抜け、また別の公園に行くとそこにはややが探していた猫がいた。


「あ!メメ!こっちおいで!」

…どうやらご主人様の心は飼い猫には届かなかったらしい。すぐさま反対方向に猫はかけて行った。


仕方がない。

「『足からマタタビの匂いがする魔法』。」

皮肉なことに、飼い主に一瞥もせずに俺に突撃してきた。

「あ…」

「ちゃんと構ってあげているのか?」

思わずニヤニヤとした顔をしてしまう。


猫を抱き上げややに手渡す。

「さて、依頼は完了だな。」

「…わかった。これが2千円。そして…」

んーどんな魔法がもらえるんだろうか?

「私の持っている、『体内の水を右手から出す魔法』をあげるよ。」


そう言うと、ややの胸から水色の光が出て来る。

俺の胸に入ると定着する感じがした。


ややは驚いているようだが、落ち着きを戻したように話し始めた。

「…ありがとう。あなたのおかげで見つけることができた。感謝する。」

「…そうか、それじゃあ他の子への宣伝も頼むよ?」

「それは取引に入ってないけど…わかった。他の子にも教えるね。」


これで少しは依頼の数が増えるといいなぁ、うん。

初めてのお金で何か美味しいものでも食べるとしよう。






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