第12話
境内に出て、神之門を抱えたまま階段から石畳に飛び降りる。
「開け!工房よ!」
落下地点の石畳に白い扉が出現する。
「え?どうなって…?」
「『拘束せよ』。後でまた開けるから。じゃあねぇ〜」
「あ、ちょっ!?」
コートのポケットに入れておいた魔法を施したワイヤーで神之門を縛り、扉の中に封じ込める。
「さてと、これでとりあえずはいいのかな?」
階段の上の方向を向くとガチギレ寸前5秒前な神主こと、今劇が立っていた。
「ふざけるなよ…その魂は、あと少しで堕ちてくるというのに…!返せクソガキ!」
「お前のでもネェだろ、クソ野郎。」
憎悪とスリルのピリピリとした空気が、寒さのせいか肌に痛い刺激が伝わってくる。
「『お互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法』『自分の魔法に1分間の制限時間をつける魔法』。」
お互いの距離の中心地点に天秤が浮かび上がる。
「魔法っていうのはさ、便利な物でこの魔法は同価値の物を交換出来る魔法なんだ。」
天秤が大きくこちらへと傾く。
「…だから何だというのか?もしかしてその女と交換したいのか?」
「だ、か、ら!お前の物じゃネェって言ってんの?脳みそ入れ替えたらどうだ?」
「話を続けるぞ?」
「魔法っていうのは組み合わせ方で色々生きてくるんだよ。じゃあここで問題な。この取引を行う魔法を強制的に解除した時と制限を与えて解除された時、この二つの違いは何だと思う?」
「…何が違うというのだ?」
「…だからお前はいつまで経っても神之門を自分の手中に入れる事が出来ネェンだよ!」
思わずゲラゲラと笑ってしまう。
あんな凄い物を使っているのに…猫に小判とか豚に真珠みたいな物と近しく感じてしまう。
いや、あんな事をやれる其れが凄いわけなのだが。
「あ、答え合わせの前に聞くんだけどさ。」
「彼女達は、もうとっくの昔に死んでるんだろ?」
ついに、今劇が何も話さなくなった。
顔は無の表情を表していてどこか不気味に感じられる。
「タネはお前が持っているその杖…詳しく言うとその杖に巻かれた布の中身の御神体だよな?」
今劇は動じない。何かぶつぶつとつぶやいている様だが話を続けていく。
「定期的にやっている能や歌舞伎ってさ、ちゃんと練習しないといけないって聞いたんだけどさ。」
「ここの様子を見るかぎり、その練習をしている様子も見れない。」
ポケットからガラケーを取り出して此処の神社のホームページを見せる。
「次の公演は年末。もう1週間しかないのになんの準備をしてないじゃないか。」
神之門さんが言っていた“ ここにいたら…時間の感覚が変なの…”という言葉。
それは、年末が彼女達は能や歌舞伎を演じていて年を越すという感覚がないから。
そして、
「40年前、ここに訪れた大学生達は何らかの原因で死んでしまった。けど、お前の持っている其れで生きているかのように演じさせた。」
40年前に何があったのか俺は知らない。
だが、彼女達の記憶が一部失われている風に見えた事から恐らく、今劇が深く関わっているに違いない。
「…クソガキ。何でお前が40年前の事なんか知ってる?」
「…さあ?何でだろうな?それより分かったのか?二つの違い「んな事どうだっていい!!」あ?」
見下ろしていた今劇の額には無数の汗が見え始めていた。まるで今が真夏かのように。
「なんで…?何で?もういいだろうが!?あの奴隷どもをしっかりと生き返してやった!本来なら死んでいる所を……なのに何でお前みたいな空気を読めないクソガキが全部ぶち壊すんだよ!?」
「…確かに、俺がここに来なかったらあんたらは今まで通り幸せな生活を送っていたかもしれないな。」
だけどな。
「お前のその御神体を俺が回収、もしくは封印する事で金がもらえるんだ!ごめんごめんw」
「マジでふざけんなよ!クソガキ!」
だってほら、その報酬でしばらくはお金に困らないし、ねぇ?
それにさ、さっきアイツは神之門さんの魂があと少しで堕ちるとかって言っていた。…そう思うと、正義は我にあり!って思っちゃうんだよねぇ。
”事件はそもそも起こさせないのが1流”...う、う~ん、名言だなこれは。
「あ、そうそう。答えなんだけどさ、」
1分が、終わった。
天秤はこちらに大きく傾きながら消え去る。
「!?」
「お?これはこれは…当たりじゃん!」
魔法を自分で解除した場合は取引がなかった事にされる。
だが、時間制限をつけて解除された場合は強制的に対象からランダムで取引がされるのだ。
今回、僕の手に渡ったものは、『四足歩行の移動速度を上げる魔法』、そして『神之門有栖の体の制御権(仮)』。
「お前…何をした?MPが減っている…?」
「『お互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法』『自分の魔法に1分間の制限時間をつける魔法』。」
…今初めて知ったけど、神之門さんの下の名前って有栖なんだ。つか、(仮)って言う事はやっぱり全部は制御出来てないって事なのかな…?
「…もういい…構えろ。」
自分のステータスを見て考え事をしていると境内に複数の人影が見えた。
出て来たのは、猟師が持ってそうなデカい銃を構えた例の大学生達だった。
目は虚で、文字通り操られているのが見える。
「でぇ?お前今から殺すけどさぁ、そんなチープな魔法でどうにかなると思ってんのか?ああ?」
銃口がこちらに向く。
殺意のない目は、何処か魚のような目をしている様にも見える。
「じゃあ死んでくれよ、クソガキ。」
トリガーに指をかける小さな音が微かに聞こえたのだった。
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