プロローグ 中
「…お兄さんの魔法、凄いね!!」
汚い小部屋に自分の可愛らしい声を響かせる。
金髪はまるで、自分の時代が来たかのように顔を紅潮させ始めた。
「そ、そうか!それで、俺の魔法は!?」
数字は、100だった。
ファンブルって言って孤児院のお兄ちゃん達曰く、致命的な失敗らしい。
よく分からないが、ダイスの女神に弄ばれているってお兄ちゃんたちは言ってた。
(ふざけんな...)
どこかの誰かが、人類にこんなへんな
その上で
もちろん、こんなの
けど、もう知らない。
幸せになるための努力をしよう。
たとえ、運が悪くても。
「えっと、今から言う事を繰り返してね。」
「おう!」
心の中で『滑舌が5分間良くなる魔法』を唱える。
「5分間、人の言った事を繰り返す魔法」
「5分間。人の言った事を繰り返す魔法!」
「5分間、人の言う事を鵜呑みになり易くなる魔法」
「!?ご、5分間、人の言う事を鵜呑みになり易くなる魔法!?」
ここで金髪は気づいたらしい。
ほんと、ロクでもない魔法ばっかり授かったばかりに。
手を伸ばしてくるが、もう遅い。
「自分を催眠する魔法」
「じ、自分を催眠する魔法!」
金髪の手が空中で止まる。
目は何処か、暗い星を見ているかのようになっていて焦点は合わず、競馬で一発負けた街のおっさんみたいに見えた。
「私は、子供に手をあげない。」
「私は、子供に手をあげない。」
金髪のポケットから財布を自分のポケットにナイナイする。
「私は一時間の間、身体能力の制限を解除する。」
「私は刺青の男見ると無意識に殴りにいく。」
「私は魔法の価値が大した価値が1円にもならない事を深く理解する。」
「私は魔法が売買できる事が常識だと認識する。」
「私は目の前にいる子供に害意を持たない」
「私は」
その時、カン、カン、と階段を誰かが登っている音が耳に入ってきた。
もうどうやら時間らしい。
「私は、今かかっている魔法が解ける。」
「私は、今かかっている魔法が解ける…ってあれ?何してたんだ、俺?」
時間がない、急ごう。
ポケットの中の財布から100円を取り出す。
「ねぇ、お兄さん。魔法をちょうだい。その代わり、百円上げるから。」
「あ、何言って…まぁ100円にもなるんだったら良いんだけどさ。」
ここで僕の魔法を発動させる。
「『お互いに同価値だと思っている物と取引を行う魔法』」
お互いの間に天秤が浮かび上がる。
金髪はまるで赤子のように手を天秤に伸ばすが触る事が出来ない。
「交換する?」
時間はない。ここが瀬戸際だ。
一歩一歩と、足音は近づいてくる。
僕の自由を奪う音が。
「いいぜ、百円にもなるんだ!喜んで交換してやるよ!」
「100円どうぞ。」
天秤が釣り合う。
この魔法は使った事がない。だが、賭けてみるだけの価値はあった。
金髪の胸から7色の光が漏れ、僕の胸元に入ってくる。
この感覚は何というか…満足した?
だが、時間は僕の感動を待ってくれないらしい。
さて、新しく手に入った魔法をさっそく使うとしよう。
「『視野が狭くなる魔法』。」
金髪に魔法をまずかける。
「え、何して…?」
ちょうど、刺青の男が入ってきたタイミングでまた魔法を使う。
「『視野が狭くなる魔法』。さて、頑張ってね。」
「あ、何を言って…ンが!?」
先ほど金髪にかけた『視野が狭くなる魔法』と催眠での無意識に殴りに行くと言う強制コンボ。さらに身体能力の制限解除で効果はバチくそ跳ね上がる!
今のコイツらはお互いに視野が狭い。つまり僕の事なんかどうでも良いと思える筈だ。…多分。
さて、遠くに行くとしよう。
街を離れ、誰も知らないところへ。
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