第20話

結局のところ、転校は無理だった。


状況で言えば顔も知らない誰かに掌の上で踊らされているようで気に入らないが、考え方によってはこの学校に何年間もいる必要はないかもしれない。


彼らは僕に魔法で何か利益があるモノを作って欲しいのだ。だからこそ、この学校にしたのだろう。

魔法に関する施設で言えば、世界に引けを取らないレベルの研究機関が協力して作られた学校は、前代未聞の数多の魔法を持つ人間が作りたいモノを作るのにとても最適な施設であり、同時に国益に還元されやすい施設でもあるのだから。


(で、点数が高いのが魔法に関する論文や新しい発明だと…)


点数は最低で25点で上限はなく、先生達の採点によって加算されていくらしい。

だが、勿論のこと、そもそも論文や発明品として最低限のラインを超えていないと、点数は0点だという。


(ま、明日は普通に授業を受けてみよ。それから考えよう。)


考えを纏めると、スマホでファンタジー系の漫画や王道系の漫画を読んでいく事にした。


折角の学校生活なのだ。楽しまないとな。


実は学校生活への憧れで、夜中に漫画をぶっ通しで読んでいく事がしたかったのだ。

只今の時刻は20時。

学校の登校時刻は8時25分なので、ここからだと10分だから、8時15分に出ないといけない。


(つまり、起きていれば12時間も読めるという訳だ…!)


「『魔力の変換させる系統の魔法の変換率を2倍にする魔法』『魔力を体力に少しだけ変換する魔法』『魔法を少しだけ停滞させる魔法』あとは…」


マジで組み合わせがないと使えないような魔法を使って、夜更かしをするための準備をしていく。

勿論、魔法だけではなく、ジュースやお菓子の準備も忘れない。


冷蔵庫に入れておいたキィンキィンのコップを手に取り、スマホで有名作品を片っ端から探していく。


(これらから何か、論文や新しい発明のアイデアになるモノはないかな…)


少しの期待と、ワクワクを胸に、夜は更けていく。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



朝、晴天なり。

だというのに、この男無常仮寝の頭の中は曇っていた。


いや、もう頭がスッキリしない…本当に思考が、遅い…


普段、野営で徹夜しても、ここまで酷くはならない。やっぱり、ブルーライトなどのスマホの画面の悪影響が大きいのだろうか?


(いや、そもそもブルーライトってそこまで目に影響があるモノじゃなかった気がする…どっかで聞いたような…?)


『自分を落ち着かせる魔法』でこれは治るだろうか?いや、魔法に頼りっぱなしのも悪いな。


(今日の授業は全部寝るか…。)


最悪、授業内容は祷さんに聞いたら良いだろうし。


教室に着いた瞬間に机と頭の間に教科書を固定する。

他の生徒は何をしているんだろうかと思ったが、すぐにわかった。

もちろん皆、内心では「流石に初日から寝ないだろ。」という考えがあった。


だが、コイツだけは本気で全部の時間を寝るつもりである。


(転校生って事で…大目に見て…くれる事を…)




そして。



「起きなさい無常君!」

「…もう…ちょっと…」


授業が始まってから早数分。爆睡かましていた無常だったが、そんなのは周りが許してくれない。

そもそも、起こしてくれる先生というだけでもありがたいのだが、同じ学校に長い間いたことがない無常にわからないのは当たり前だった。


「転校初日に寝るなんて…はぁ…」

「徹夜でちょっと遊んじゃって…あ、そうだ。聞いてみたい事があったんですけど、いいですか?」


右手で学校指定のカバンの持ち手に手をかけながら先生に顔を向ける。


「この学校って、何か魔法に関わる発明や、論文を書いたりすると沢山の点数が得られるって聞いたんですけど、本当ですか?」


先生の顔は”コイツもか”と言わんばかりのあきれ顔になりながらも答えてくれた。


「ええ。点数は最低で25点で上限はなく、私達の採点によって加算されていきます。どうやらある程度の話は祷さんから聞いているみたいですね。その影響もあって、日々の出席点や課題点はとても小さいです。」


どうやら、結構めんどくさい学校なのは確定したようだ。

そう思いながら席を立とうとすると、三輪先生は大きな声で教室をゆっくり歩きまわりながら話を続けた。


「ですが!!そうだからと言って発明や論文に一辺倒な学校生活を送るのはあまりお勧めしません。現に、そういった人達は全員留年しているからです。そして、この学校では例外的に中学生で留年する事があります!それらをよくよく考えてから有意義な学校生活を…って話聞いてます!?」


いつの間にか教室の扉に手をかけて教室を出ていた無常は、工房の使用申請が出来る所に足を向けていた。


(いつも使っている自作の工房はもう物置としてしか意味を成してないし、この際しっかりとした地に足ついている工房のほうが良いだろうし…)


既に、無常の頭の中にはまともな学校生活を過ごすという選択肢はなくなっていた。


魔法の開発や論文はめんどくさいが、実際、自分の持つこれらの力をしっかりと洗練させるためにも時間が必要なのは事実だった。


そして、無常に新しい魔法の可能性を提示して欲しい人間たちへの対応策はしっかりと考えていた。


(発表するものを普遍的なもの以外にすれば、模倣されにくくなるだろう。)


新たな可能性は提示してやるはやる。だが、自分達の利益にするのはそっちで頑張れよな。な?


昨日の校内の記憶を振り返りながら事務所に着くと、ざっと3年分の工房申請と、その他機材諸々の取り扱いに関する説明と書類を書いて申請した工房の鍵を貰う。


「ではこれで完了です。…ちなみに、3年単位で申請したのは君が初めてですよ?」

「部活動や遊びで申請する人はいないんですか?」

「ダメでも工房そのものが全然使われていないんで、いるにはいるんですが…年単位ではいません。」


(確かに。まずは1年とかで申請しとけばよかったかもな。)


鍵とカバンを握りしめながらエレベーターで工房がある階まで昇っていく。

チンと、エレベーターの閉会音が鳴り響く廊下から見た工房の姿は普通の部屋のように見える。


鍵を使ってドアを開けると、そこは40畳ほどの大きさの部屋だった。

部屋の内部には机や椅子、棚やパソコンと言ったモノから蛇口や空調設備なんてモノもあった。

ここにベッドやご飯も置いたら住めるかもしれない。


(これだったら来月の家賃を払わなくてもいいし、浮くな…)


そう思いながら、右手で制服の内側のから茶色のトランクを出す。

トランクを広げ、中から盗聴器発見器を取り出す。


「『電子の流れを体感する魔法』」


これから1年過ごすこの場所の安全を確かめて行く。


部屋の電気をつけたり消したりは勿論のこと、空調設備をあれこれ弄りながら、約1時間くらい部屋の安全確認に費やした。


結論、この部屋は安全であり、子どもが持つには最高の空間である事がわかった。


ちなみに、外部からのアクセスを物理的にも遮断出来るらしく、シャッターを下ろすことも出来るらしい。


欠点を挙げるなら、窓がついていない事ぐらいだろうか。


トランクに盗聴器発見器を直して布団と銀マットを取り出す。


(寝たい…本当に、寝たい…)


そのまま、僕は頭からふかふか布団にダイブして気絶したかのように眠りについた。


明日からだ。

明日から本気を出すのだ。

多分。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


無常仮寝の本当にどう使うべきかわからない魔法


『脳内に楽天カー◯マンのCMが映し出される魔法』


消費魔力1



































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鋼銀の旅人 木原 無二 @bomb444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ