第43話エピローグ

 今だ、興奮醒めやらない観客席と降りたばかりの幕を隔てたステージには、ライブを終えたばかりのトリケラトプスのメンバーが暫しの余韻に浸っていた。


30年ぶりのライブを全力でやり遂げた達成感、そして再び前島と一緒に演奏が出来たというこの上ない幸福感。武藤と森田、そして喜矢尻が森脇のもとへ歩み寄り、それぞれが固い握手を交わした。


 そして最後に、前島晃が憑依しているであろう喜矢尻を、森脇は力強く抱きしめた。


「晃、やっぱりお前は最高だよ!」


 ギターが弾けない体になった事を苦に、自らその命を絶った前島。その彼にしても、念願だった武道館で最高のライブステージが出来た事はこの上ない歓びだったに違いない。森脇に抱かれた喜矢尻は、本当に嬉しそうなとびきりの笑顔を森脇に向けると、最後にひとこと言った。


「ありがとう勇司。これでやっと逝けるよ」


 次の瞬間。森脇を抱えていた喜矢尻の身体から、まるで糸の切れた操り人形のように全身の力が抜けた。


「お、おい!晃!」


 その後は森脇がいくら呼んでも、前島が帰る事は無かった。次に喜矢尻の意識が戻った時、彼はこの一時間半の記憶を全て無くしていた。



          *     *     *



午前0時10分………


 テレビNETの社運を懸けた記念特番『24時間ライブ』は本田や陽子の予想を遥かに上回る大成功に終わった。


 番組が用意した、観客を各方面の最寄り駅へと送るシャトルバスが停車する駐車場から少し離れた場所で、トリケラトプスと陽子達は顔を合わせ互いを労う。


「お疲れ様でした。演奏前は一体どうなる事かとヒヤヒヤしましたが、さすがはトリケラトプス!最高のステージを堪能させてもらいました!」

「こっちの方こそ、本番前にドタバタしちまって申し訳なかった。おかげでいいステージが出来たよ」


 夕方から降り始め、夜には嵐のようになっていたあの雷雨も今ではすっかり上がり、雲の切れ間には散りばめたダイヤモンドのような星が幾つも瞬いていた。


森脇がその星空を見上げ、目を細めて呟いた。


「アイツ、ずっと俺達の事を見てたんだな」


 別れ際の最後に『これでやっと逝ける』と告げて消えた前島。


 前島の死に絶望しロックを封印していた森脇の姿を、きっと前島はどこかで見守っていたのだろう。もしかしたら、森脇に再びロックを演らせる為に森脇と陽子を引き逢わせたのは、あるいは前島だったのかもしれない。


「前島さん、きっとこの先もずっと見守っていてくれますよ」


森脇の隣で同じように夜空を眺めていた陽子が、そんな事を言って優しく微笑んだ。


その時、二人が見ていた夜空にひとつの流れ星がすうっと横切るのが見えた。そして、何故だか二人にはそれが前島からの答えのような気がしてならなかった。






                             ───END ───


最後までこの作品を読んでいただき、本当にありがとうございました。

                    ―――夏目漱一郎―――






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Hit Parade~奇跡のライブステージ~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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