第4話 「菅原梅ノ木神社」✕「菅原神社」

「アンタちょっとアッチの様子見てきてよ」


 俺が炬燵でミカンを食べながら天国でバラエティ番組を見ていると、突然お声が掛かった。

 視線をテレビから離すと、慌ただしくお茶やお菓子を配膳している母親と目が合った。


「えー」

「えーじゃないわよ。どうせ暇してるんだから少しは役に立ちなさい」

「えー」

「お年玉覚悟しときなさいね」

「行ってまいります!」

「よろしい」


 クソ。幼気いたいけな中学生(今年から高校生だが)に何て事を言うんだ。お小遣い制を採用していない我が家ではほぼ唯一の収入源だぞ。ソレを人質(金質?)に取るなんて、我が親ながら恐ろしい。


 俺はいそいそと外出の準備を始めた。

 流石に寝間着がわりのスウェットで行く度胸はない。

 まぁ、特に服装にこだわりが無い俺が持っている服などたかが知れているのだが………。

 チノパンにパーカー。それにダウンジャケットに手袋、マフラー冬装備


「いってきまーす………うへぇ〜 今年も積もったなぁ………」


 玄関の扉を開けると一面白銀の世界だった。温暖化が騒がれて久しいが、この辺りは毎年年末から年始にかけて雪が振る。

 

「二十センチはありそうだなぁ」


 ため息混じりに呟いた。

 雪が積もってはしゃげる年齢を卒業して久しい。

 子供は風の子元気な子。

 大人は火の子。

 俺はゴロゴロ布団の子。


「おー お土産よろしくな」

「おわっ! びっくりした………。何だ居たのかよじいちゃん。って、その格好。また道場か?」


 特に「行ってらっしゃい」を期待していた訳ではなかったのだが、返事が返ってきた――目の前から。 

 そう言えば我が家には俺の他にもう一人暇人が居たな。


「おうよ。コレしかやる事がないからのう」

「そんな元気ならまだ神主してればよかったのに」

「バカ者。神主なんぞしておったら剣が振れんではないか」

「はいはい。そうですか」


 相変わらずの剣術バカだ。


 神主の仕事を自分の息子に父親に丸投げして、今は門下生が一人の剣術道場の師範をしている悠々自適な老後生活を満喫している


「で、どこに行くんじゃ?」

「望のとこ。だからお土産はないから」

「なんじゃつまらん。まぁ、望ちゃんによろしくのぅ」

「はいよ」


 じぃちゃんと別れ、処女雪の世界に踏み出した。

 向かうのはこの地域にあるもう一つの神社『菅原神社』。

『菅原梅ノ木神社』とは三百メートルほど離れた村の入り口に鎮座している。

 名前から分かる通り二つの神社は同じ神様を祀っている。


 菅原道真。


 平安時代の貴族であり学者、詩人であり政治家。右大臣まで務めた英傑だったが無実の罪で島流し左遷され、その生涯を閉じた。しかし、その死後道真を貶めた者たちに次々に不幸が訪れた。皆が道真の祟りと恐れた災厄は、その怒りを鎮めるために神社が建立された後鎮まったとされている。

 今では学問の神様として有名だが、そんな歴史がある神社だったりする。


 しかし、一つの小さな村に二つの大規模の神社があるのは中々に珍しいのではないだろうか。


「まぁ、だからこんな事になってんだろうけど」


菅原梅ノ木神社ウチ」と「菅原神社」は仲が悪い。………いや、少し語弊があるか。

 どちらの神社も菅原道真生誕の地をうたっているのだ。幼少期を過ごした場所として御利益があると………。

 正直眉唾な話しだ。

 望が言うにはそういう神社は全国にいくつかあるらしいし。

 まぁ、真偽の程はさておき。

 どちらの神社も同じ事を主張しており、その証明は不可能。

 故に言った者勝ち。

 その場合参拝客の多い方が勝ち――世間に認められる。

 そして、現在。「菅原梅ノ木神社ウチ」はダブルスコアくらいで負けているという訳だ。

 そういう事情もあり、敵城視察として派遣された尖兵が俺ということだ。


「はぁ………まったくいい迷惑だよ。せっかくの冬休みだってのに」


 俺は独りゴチながら、まだ除雪が進んでいない雪道を歩いて行った。

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神之遊戯 菅原 高知 @inging20230930

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