本作は超王道のボーイミーツガール異能バトルSFラノベであり、いろいろな意味でひねくれものの集まりであるカクヨムにおいて、眩しいほどに真っ直ぐな作品だ。かつて作者の三枝先生は、ゼロ年代ラノベの空気感を色濃く継承した作品である昨年の電撃小説大賞受賞作「妖精の物理学」を「人類帝国最後の遺産みたいな作品」と評し、「これを受け取ってしまった我々は人類帝国を復興しなければならないんだよなあ……」と語っていたが(出典)、そこへゆくとこの作品は、その人類帝国の復興を世に示すものとしてこれ以上はない作品だと言える。なんで大ベテランが新人を継ぐ者になってるんだよ あーっ
量子力学と八百万の神々をガッチャンコさせるという突飛な設定から、しかしそれが出オチにならず全編において活かされ、空想の翼がどこまでも広がり魅力的な世界を描き出している。読者の知りたい・気になっているところは先回りして教えてくれる、かゆい所に手が届く親切仕様も完備だ。さらに、物語の土台もしっかりしているため、設定が分からずとも「タイイチでラブコメする異能学園ものだよ…たぶん」くらいの認識でもじゅうぶんに楽しめる。
キャラクターの描写も見事で、どのキャラも立っている。一人一人の個性がかなり丁寧に描き分けられていて、しかも過剰でない。数もちょうどよく、こいつ誰だっけとなることはかなり少ないのではないかと思う。
その個性的なキャラの中で、物語は主人公とヒロインの二人を軸としていてまったくブレていない。幕間を別とするとすべて主人公の一人称で展開され、知識が偏っている主人公がヒロインからものを教わる描写が、そのまま綺麗に設定説明となり、読者は主人公と一緒に物語世界のことを学ぶこととなる。また、主人公は知っているが彼の中では当たり前すぎてわざわざ明示しないこと、主人公自身の特異性を彼自身が正しく認識できていないことも混在しており、若干「信頼できない語り手」による叙述トリック的にもなっている。物語としては基礎中の基礎だが、これが抜群にうまく、一流の奇術師によるマジックを見るように読者はつねに驚かされ続けることになる。
要素がすべて過不足なく整理され、読者は無駄な苦しみを覚えることなく物語世界のすべてに没頭することができる。これはまさしく職人芸であり、余人に真似できることではないだろう。
(出典)https://x.com/saegusa01/status/1921043685682057296
大切なもののために一歩ずつ歩む、まこと尊きボーイミーツガール!!
「八百万の神」と「量子力学」、みんな詳しくは知らなくてもうっすらなんかすごいと思ってるふたつを掛け合わせて、みんな大好き荷電粒子砲にしてお出ししてくるとか着想の大勝利です。
面白かっこよすぎる。
“極限の集中下の一瞬を体感する”アクション描写はもはや職人芸。そこに加わる、ド派手にぶっ飛ばす爽快感。
ギリギリの緊張感とのギャップがめちゃくちゃ気持ちいいです。
善性を以て真っ直ぐがんばる主人公、先輩に振り回されつつ幸せにしろ!!
一緒に戦うバディとして、電車で読むとニヤけて危険な甘酸っぱカップルとして、2人にどんな展開が(試練が、苦難が?)待っているのか楽しみでなりません。
設定の重厚さが決して重荷にならず、読者をすっと没入させてしまう筆致にまず唸らされます。
神社の由緒や学園の政治的背景まで幾重にも積み重ねられた世界は、地層のように深く、豊かで、その厚みに押しつぶされることなく、むしろ「自分もその空気を吸っている」と思わせる臨場感を与えてくれる。
とりわけ心を揺さぶられるのは、**「名が実在を規定する」**という発想です。
本来の神道は「言挙げせぬ国」と呼ばれるほど、名前を固定しないことで神秘を保ち、曖昧さを豊かさとする文化を持っています。
そのタブーを反転させ、あえて「名を言挙げすることで初めて存在が確定する」というルールを物語に据えたとき、読む側はぞくりとする。
曖昧さを削り取ることで立ち上がる、強烈に鮮やかな世界像。まさに現代の物語だからこそ成立する逆説であり、この作品のドキドキ感の源泉だと感じました。
──そしてこの仕掛けは、きっと映像でこそ真価を発揮するはずです。