第3話 新年
「ふあぁぁぁ〜………」
八雲家の新年は早い。
『菅原梅ノ木神社』。
古くは平安時代――菅原道真の死後
しかし、歴史があれば良いというものでもない。
如何せん知名度が低い。
その証拠に
大抵の参拝客は出雲大社や八重垣神社、
『菅原梅ノ木神社』に参拝するのは近所の人か普段は教師をしている両親の知り合いくらい。それも、他の神社に初詣でを済ませてから来る二番煎じ。
故に新年とはいっても、忙しくなるのは昼過ぎくらいからだ。
しかし、流石に参拝客がゼロと言うこともないので両親は日が昇らない内から急かせかと動き出す。
まぁ、家業にあまり関係ない剣は普段通りに惰眠を貪っているのだが。
「ふあぁぁぁ〜………」
冒頭へ戻る。
時刻は午前六時。
田舎の朝は早いとはいえ、早過ぎる時間。いつもなら後一時間はベットの中でサナギよろしく布団に包まっている。
しかし、
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え〜――――」
そして典矢が祝詞を唱えるのを座して聞かされる。
数年前までは祖父の
初めの頃は聞き慣れない感じで違和感があったが、ようやく耳に馴染んできた。
うん。いい感じで眠くなってきた………。
「あたっ」
「ちゃんとしなさい」
ウトウトしてたら隣に座っている母親に小突かれた。新年早々神様の前で暴力とは中々やるな。
「アホなこと言ってないでちゃんと起きてなさい。アンタ一番寝てるんだから」
「………夢見が悪かったんだよ」
「年明け最初に見る夢は正夢だから気を付けなさいよ」
「………嫌な事言うなよ」
祝詞を遮らないように小声で喋る。
眠気と冷気、正座をする足の痺れ、新年早々の苦行が終わると家に戻って、御神酒を回し飲む。とは言っても、剣は未成年。ほんの少しの舐める程度だ。
「お餅何個入れる?」
その後はお待ちかねの
シンプルイズベスト。
「俺三つー」
「はいはい」
「はいは一回です」
「その言葉自分に返ってくること忘れないようにね」
「うっ、………はい」
何はともあれ、育ち盛りに餅はありがたい。なんたって腹持ちが良い。
「ズズズ」
冷え切った身体を優しい温もりが巡る。
「ふぅぅ。ふっー ふっー はふっはふっ。ああーウマー」
いい具合にとろけた餅を海苔と一緒に口に迎える。
「ああ、一年頑張れそう」
「アンタチョロいわね」
「煩いな。おかわり」
「はいはい」
「はいは――」
「一回ね」
こうして怒涛の一年は穏やかに幕を開けた。
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