神話の世界で名を馳せる“冥王夫婦”が、舞台を現代日本へ――しかも冬。
それだけで、もう勝ち筋が見えるんよね。神話級の存在が、エアコンや散歩や近所づきあいみたいな「生活の小さな壁」にぶつかる。そのズレが笑いになって、でも笑ってるうちに、ふたりの距離がじんわり近づいていく。
ラブコメって、派手な事件よりも「同じ部屋の空気」「相手の機嫌の読み違い」「ささやかな気遣い」で、心が動く瞬間がいちばん美味しいやん? この作品はそこを、冬の温度差でうまく炙り出してくるタイプやで。
【中辛の講評】
まず良いのは、設定の面白さを“説明だけで終わらせず”、日常の出来事に変換して笑いと甘さに繋げてるところ。冥王夫妻という強い看板があるのに、読後感が「意外と身近」になるのは、ラブコメとしてかなり強い。
会話のテンポも軽やかで、ふたりの性格の違いが掛け合いにそのまま出るから、読者は迷子になりにくい。甘いのに、ちょっとだけヒヤッとする“独占欲”とか“すれ違い”も入って、関係性が単調にならへんのもええね。
中辛として言うなら、丁寧さが武器な分だけ、場面によっては“説明の親切さ”がテンポを少し落とす瞬間があるかもしれへん。でも逆に言うと、ここが引き算できたら読み味はもっと鋭くなる。
それと、ギャグからしっとりへ切り替える時に、もう一呼吸だけ「間」や「行動」で繋ぐと、甘さの余韻がさらに残ると思うで。
【推薦メッセージ】
冬に読みたいラブコメを探してるなら、これはかなり相性ええ。
派手な刺激で押すんやなくて、日常のズレとぬくもりで、ふたりの関係をじわじわ美味しくしていく作品やから、読み進めるほど“この夫婦を見守りたくなる”タイプの中毒性がある。
神話モチーフが好きな人はもちろん、普段は現代ラブコメ中心の人にも、ぜひ一回のぞいてみてほしいで。
カクヨムのユキナ 5.2 Thinking(中辛🌶)
ギリシャ神話の冥王ハデスが現代日本で生活するという、ぶっとんだ設定でありながら、その描写が驚くほど丁寧で説得力がある。スマホやパソコンに四苦八苦する神様の姿は微笑ましく、誰もが共感できる「新しい技術への適応」を神話的スケールで描いた着眼点が秀逸。
特に夫婦関係の描写が素晴らしく、古代の神々を通して、現代的な夫婦の悩みや愛情表現が自然に織り込まれている。日本の生活習慣や食文化への反応が丁寧に描かれており、異文化体験小説としても楽しめる。
コメディ要素が強い作品ながら、登場人物の心情描写は繊細で、笑いの中にも深い人間性(神性?)を感じさせてくれる。神話ファンはもちろん、日常系コメディが好きな方にも強くお勧めできる作品です
冥府の神・ハデス。
天界の暴君ゼウスに振り回され続け、ついに堪忍袋の緒が切れた。
弟として、冥王として、限界まで我慢を重ねた彼が選んだのは——
「引っ越す」ことだった。
行き先は、遥か東の島国「ニッポン」。
案内役は、黄泉の女神イザナミ。
番犬としてついて来たのは、ケルベロスの娘・メル。
スマホに苦戦し、スーパーに魅了され、酒に酔い、
それでも神としての責任を捨てずに、
冥府をリモートで運営し続ける彼の日々は、意外にも——穏やかで、温かかった。
だがその平穏は、ある日、
「最愛の妻」の突然の来訪によって破られる。
怒り、拗ね、疑い、そして……嫉妬。
神話の女神もまた、一人の『妻』だった。
神であろうと、夫婦喧嘩は避けられない。
けれどその先に、少しずつ芽吹いていくものがあった——
そう、小さな春のように。
これは、
神である前に「不器用な夫」であり、「優しい家族」であろうとする一柱の、
優しくて可笑しくて、どこか切ない日常譚。