第7話 ガイドライン違反の小説
「えっ、ええっ、どうして……?」
なんとなく、奇妙な気がした。
PVだけが異様に増えているのに、おすすめレビューの☆と♥はひとつも増えていない。
PVだけでも増えて喜ぶべき……かもしれないけれど。
こんなことって、あるんだろうか?
ブルルルル!
首をひねっていた僕の手の中で、スマホが振動した。
「うわ……」
ひめかからだ。
朝に電話なんて、どうしたんだろう?
『……』
「ひめか?」
『……』
「ひめか……だよね?」
ガサゴソと音がした。
『私、ゆりかだけど』
「ゆりか?」
確かにゆりかの声だけど。
え? なんで?
『さっさと支度して! もうすぐ、まりなが車で迎えに行くから』
まりなさんが?
「あの……」
『今日は午前の授業ないでしょ』
「そうだけど……」
『ひめかもここで待ってるから』
「でも……」
プツッ。
通話はいきなり切れた。
車で迎えに……って言ってたけど。
どういうことなんだろう?
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「え……ええ……」
ちょっと待ってくれ。
まだ、着替えてない。
いや、それより、何がなんだか……。
ピンポーン。
「あ、あの……」
『申し訳ないけど、急いでください』
「は、はい、す、少しだけ、待っていてくださいっ!」
僕はインターフォンに向かって叫び、洗面所に走った。
*****
「お……お待たせしましたっ!」
まりなさんは、昨日会ったときと同じように感じが良かった……けれど、少し、疲れているように見えた。
「早速だけど、出発しましょう」
まりなさんは、白いセダンの助手席側のドアを開き、僕を座らせた。
「どこへ行くんですか? さっき、ゆりかと電話で話したんですけど、何も教えてもらえなくて……」
「うちの会社の事務所に向かいます。ひめかとゆりかが待っています」
運転席に座ったまりなさんは、僕に、ダブルクリップで留めた紙の束を渡した。
「それ、到着までに読んでください」
「あ……はい」
何も書いていない表紙をめくると、スマホのスクショ画像が並んでいた。
「これって、カクヨムの画面ですね」
「ええ、昨日の夜から今朝にかけて公開されていたものなんです」
タイトルは『ひめかを暴露』。
作者はY。
中身は……。
「なんだ、これ……」
「出版されている官能小説の登場人物の名前をひめかに変えたもの……だそうです」
「ひどいイタズラですね。でも、すぐに公開停止になると思います」
露骨な性的描写はガイドライン違反だし、そもそも、他人の文章を丸パクするのは犯罪行為だ。
通報すれば、すぐに公開停止になるだろう。
「ええ、アカウントごと、小説も近況ノートに載せていた写真も、すでに削除されています」
「写真?」
「最後のページを見てください」
そこに載っていたのは……、
「ひめかと……僕?」
昨日、水族館から出て駅に向かって歩いていたときの、僕たちの後ろ姿の写真。
キャプションは「ラブホから出てきたふたり」。
僕の短編小説のタイトルと、URLまでちゃんと書いてある。
それから、ひめかの顔のアップの写真。
黒いキャップと黒いマスクで顔のほとんどを隠しているけれど、マスカラを塗った長いまつげときれいな二重がくっきりと見えるまで拡大しているから、ひめか本人だとすぐにわかる。
その下には、ひとつだけでもガイドライン違反になりそうな単語ばかり並んでいた。
「これって……もう、削除されたんですよね……?」
ひめかには絶対に見せたくないな……と、思いながら尋ねると、まりなさんは、悔しそうにため息をついた。
「カクヨムからは削除されました。でも、暴露系インフルエンサーが、そこに載せたスクショを……小説も写真も、全部、公開したんです」
「じゃあ、ひめかも、これを……?」
「ええ、そうなんです。それで、ひめかの声が出なくなってしまって……」
↓短編「英国紳士と淑女と蜃気楼の少女」はこちらです。
https://kakuyomu.jp/works/16817330668816132129
↓短編「がっこうのひみつ」はこちらです。
カクヨムコンに短編で参加したらギャル系YouTuberの契約彼氏になった からこげん @genkarako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。カクヨムコンに短編で参加したらギャル系YouTuberの契約彼氏になったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます