第6話 かべにミミありしょうじにメアリ

 その日の夜、「ひめゆり」の新作動画を見た。


 「探偵に初恋の人捜しを依頼する」という企画もので、登場したのはゆりかの初恋の人だった。


 通っていた幼稚園の園長先生だったというその人は、白髪の上品な女性で、「中学生の孫が『ひめゆり』のファンです」と語っていた。


 再会に感激して涙ぐんでいたゆりかは、とても可愛らしく見えた。


 大学で会ったゆりかと同一人物とは思えないほどだった。


 僕まで思わずもらい泣きしそうになったとき、ひめかから電話が掛かってきた。


 僕は、呼び出し音が止まる前に、メッセージを送った。


<電話じゃなくてメッセージ使って話そう>


<どして?>


<壁にミミあり障子にメアリって言うから>


 返信は、なかなか返ってこなかった。


 僕は、なぜか、久しぶりに小学生のときのことを思い出した。


 無口な女の子を笑わせようとして、くだらない冗談を連発したっけ。


 クラスが別だったけど、その子も僕も図書委員だったから、図書室で一緒になることがあった。


 全然しゃべらないから、ちょっとでも笑ってくれればいいと思ったんだけど。


 ちなみに、「障子にメアリ」はその頃の僕のお気に入りのフレーズだった。


 その子にも何度も言った。


 けど、笑わせることはできなかった。


 その子は、びっくりしたような顔で僕を見るだけだった。


 結局、僕は、1度もその子の声を聞かなかった……。


<誰かが見たり聞いたりしてる、ってこと?>


 ようやくひめかから返信があった。


 僕のギャグは無視することに決めたようだ。


<用心した方がいいと思って>


<そだね。ゆりかとまりなにバレたの、それなりに気になるし。あんたの部屋の隣で、誰かがミミをすませてるのかもだし>


 ひめかは、ゆりかを全然、疑っていないみたいだ。


 たぶん「ゆりかにもらったぬいぐるみに盗聴器が仕掛けられてるかも」なんてこと、1度も考えたことないんだろう……。


<さっき、動画見たよ>


<何の?>


<まりなさんに勧められた『ひめゆり』の新着動画>


 横を向いて「ふーん」と言っているスタンプが送られてきた。


<次の動画は、ひめかの初恋の人捜し?>


<はあ?>


<今回はゆりかだったから、次はひめかかな、って……>


<私のはやらないよ>


<え? どうして?>


<シャレにならないよ。ゆりかのはおばあちゃん先生だったからいい話だったけどさ>


 シャレにならない……?


 ひめかのはいい話にならないのか……?


<あんたはどーなのよ>


<僕は……小学校で図書委員を一緒にやってた子かなあ。名前とか忘れたけど……>


 ひめかからの返事がまた途切れた。


<もしかして、もう寝た?>


 僕もそろそろ寝る、と送ろうとしたとき。


<日曜、遊園地に行きたい>


 いきなりメッセージが送られてきた。


<遊園地?

 変装してもバレるんじゃないかな

 人多いし>


<イルミネーション撮りたいんだよね。夜なら大丈夫じゃね?>


<少し暗くなってからならいいかも>


<じゃ、夕方から>


<うん

 おやすみ>


 契約彼氏の期間は、あと1週間。


 これ以上、なにごともなく無事に過ぎるといいな、と思いながら、僕は眠りについた……のだが。


 翌朝、目覚めたとき。


「え……えええ?」


 カクヨムに投稿した短編のPVが爆上がりしていた。


↓短編「英国紳士と淑女と蜃気楼の少女」はこちらです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330668816132129


↓短編「がっこうのひみつ」はこちらです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653990075587

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