Bonus.淵よりの置き手紙
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──この物語に触れた貴方へ。
まず初めに『怪物』が何なのか、それをお話いたしましょう。
❖一つ。怪物とは正体不明でなければならない。
❖二つ。怪物は人の言葉を話してはいけない。
❖三つ。怪物とは不死の存在である。
この三条件を満たさぬモノは怪物の成り損ないである。そして
次に彼女──ラズリー•バンディングのその後について。
冒頭にもある通り、ラズリー・バンディングと言う名の少女は亡くなりました。また、それに伴いラビ・ルーバスの平穏も終焉を迎えてしまったのです。
それは決して、ラズリーがマリアスの用意した終末装置を使ったからではありません。人々は自らの手で滅びの火を灯したのです。
それはさながら、寄生虫に侵された蟷螂が入水自殺するようなものでした。その原因である寄生虫を野に放ったのはマリアスですが、ソレも求められてのこと。彼女の事を考えれば、それもまた仕方ないの無いことだったのでしょう。擦り切れた姉を、私はどうすることも出来なかったのですから──私にも罪はあるのです。ソレを忘れ、殴りかかってしまったのは恥ずべき事でした。
──けれど、えぇ…………彼女の行為には思う所があったのです。だから姉を、マリアスを殴りました。
彼女はアルグィアランヴィスで生活していた時から、常に平穏を望んでおりました。自分達がそうしていられるのだから、世の中の人々もそうすることが出来る筈なのだと口にしていました。幼い頃──そうですね、大凡120年前でしょうか? その頃はマリアスの夢に共感し、近隣の村落への施しをした事も覚えています。
ですが彼らは──私達を裏切りました。
その理由はわかりませんが、彼らは『
……結果として、伝播したのは狂気の波だけでした。
ですが月光の導きなどありはしないのです。そんな無いはずのモノに心を惹かれ、天上の彼等を真似し始めた者達が居た。彼らは各地で殺し、奪い、捧げ続けたのです。祈りと模倣、壊れた狂気を注ぎ坩堝を満たし、天上の彼等から恩寵を賜ろうとしていた。
────……そうして私達の故郷は戦禍に飲まれ、失われたのです。誰が言い始めたのかは解りません。私達『魔女』を殺しその血を捧げることで天上の彼等が喜ぶと、誰かが言い始めたのです。
私達も抗いましたが、全ては失われました。故郷は灰となり数多の同胞は海へと還ったのです。
これがアルグィアランヴィス漁村の虐殺──私の経験した虐殺の記憶。それだけの事をマリアスも経験した。なのに彼女はまだ……人を信じようとしていたのです。多くの人は望んでこうなったのではない、月の光に導かれただけ。多くの人は善良であり良き隣人になれるのだと──彼女は口にした。しかし当時の私は、そうは思えなかった。だから一度は袂を分かったのです。
後に私はピナへと渡り、そこの教会に身を寄せ──いつしか私一人になりました。あの教会で独り海を眺め、風の調べに耳を傾け、天上の星々に宇宙を視た。そんな生活を続け、気がつけば100年余りが経っていたのです。
それだけの時間が経てば、心変わりの一つくらいはあって然るべきなのでしょう。故郷を無くした子供や、親から捨てられた子供。居場所のない子供達を集め、育てるようになっていたのです。
……居場所がないことの辛さを知っているから、そんな事をするようになったのでしょうか? 今となってはそれすら解りません。けれど、その時間は幸せなものでした。戦禍の臭い一つ無い平穏な場所で、ここを居場所だと言ってくれる子供達が居るから、私も幸せだったのでしょうね。
────2079/03/19 エーギル•ロンド•カルロチャプより。
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R.I.P メイルストロム @siranui999
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