次世代の『修復魔術士』
その頃には夕方になっていたが、外は晴れてきたようで、家のあちらこちらの窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
ドロシーは、西側の
西日に照らされたスズランのステンドグラスはかなり古そうだが、目立った傷や汚れだけでなく、
このステンドグラスも、オリビアの
ウォード家の三人と使い魔の二羽は、今夜は同じ場所に行くらしい。
ジョセフとサイモンの友人の居るコリン家と一緒に、セイナン町のレストランで夕食を食べる予定だそうだ。コリン家とは、マンナカ城の給仕である父親を持つ、
サイモンより先にジョセフとクララ、それからライサスとロニーが出かけるようだ。
ドロシーとルルは、サイモンと共に外に出ることになった。
「ドロシー、本当にお疲れ様。ここ数日、初めてだらけで緊張しちゃう仕事が続いて大変だっただろーけど、明日からは連休で良かったね!」
「そうだね。家で甘い物を食べながら、ゆっくりと過ごそうかな」
ステンドグラスの前でドロシーとルルは、サイモンが自室から戻ってくるのを待っていた。
サイモンが自室から出てくると、彼は仕事着とは違う白いシャツに着替えてきたようだ。全体的にフリルが少ない、彼がよく使うデザインのシャツを来て、早足で階段を降りてきた。
「持たせてごめんなっ! と……、外に行く前に、ちょこっと話をしてもいーか?」
サイモンがドロシーに近寄ると、ドロシーは返事をして、サイモンの方を向いた。
その後、サイモンは片手で頭を
「全く……、昼はホントみっとも無かったわ、オレ……。縁談の件な、本来ならオレから伝えるべきなのに、親父がうっかり先走って話しちまって、悪かった……」
サイモンの言葉を聞いて、業務終了直後に、顔面を
「ドロシー。……オレのこと、嫌いか?」
「きっ……嫌いな訳っ、無いじゃないですか!!」
顔色は変わっていないが、勢い良く顔を上げて、ドロシーはサイモンの目をしっかりと見つめた。
「縁談……、前向きに検討くれるか?」
「あっ……。はいっ、承知……しました」
「はあぁぁ、良かった〜。なら、よろしくっ!!」
そう言うと、はにかみながらサイモンは強くドロシーを抱き締めた。
ドロシーはサイモンの大胆な行動に非常に驚いたが、照れながらもとても嬉しく思っているようだ。
「そーいえば……。サイモンさんは、どうして私を、気に入って……頂けたのですか??」
(クソ真面目で、意思が強くて……。ブレない想いを
オレには無いモン持ってるのが
そのように心の中で
とはいえ、サイモンのドロシーに対する温かくて甘い感情は、彼の表情から読み取るのは、誰の目から見ても容易である。
「アンタのことをずっと、誰よりも近く場所で応援し続けたいから。……ただ、それだけさ」
ドロシーの使い魔であるルルは、目を見開いて口元を
と……窓の外、遠くから時刻を知らせる
互いの気持ちを確かめ合ったドロシーとサイモンに向かって、しばらくの間、ステンドグラス越しの
オリビアの肖像画を完璧に修復したことをきっかけに、以後ドロシーはニシノハテ公国の人々から、次世代の『修復魔術士』と呼ばれることになる。
縁談がまとまった数カ月後には、ドロシーとサイモンは〈ヒダマリ大聖堂〉で、彼らの親族や友人たちに祝福されながら、少人数のささやかな式を挙げたのだった。
そして、ニシノハテ公国の人々は、亡きケーラの功績と同じように、人生の
〈了〉
修復魔術士の孫 立菓 @neko-suki
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