最も難しい依頼(下)
ドロシーたちを乗せた馬車が発車すると、馬車は小雨の中、セイナン町の大通りを進んでいった。
そして、馬車がマンナカ城の堀を通り過ぎた時、サイモンはドロシーに、今回の依頼に関する経緯について話し始めたようだ。
「昔から、親父とお袋はラブラブらしくてな。お袋は身寄りが無かったが、親父がセイホク村の孤児院に直接寄付を届けに行った時に、親父に
で……、玄関横にあるお袋の
「そうだったんですね……。長年、ジョセフ様が大切にされているものだからこそ、心を込めて丁寧に修復させて頂かないと」
サイモンとドロシーが話している間に、馬車は次第にセイナン町の中心地から離れていった。
二人と一匹が気付いた時には、馬車はセイナン町の端にある、小さな集落の間を走っているようだった。
集落を抜けて、森の横を少し進むと、馬車は森の中にある小道の
ドロシーとルル、サイモンが馬車から降りると、外の小雨は弱まっていたようだ。
ほんのちょっとだけ青空も見えている。
サイモンは、
だが、森の中の小道を歩いている時に、木々の枝や葉から
ドロシーたちが、緑に囲まれてひっそりと
ライサスとロニーも家の中に居て、玄関の止まり木で休んでいるようだった。
「こんにちは、ドロシーお姉様。また家に来てくれて嬉し〜♪ ルルも来てくれたのね、ありがとうっ!」
ドロシーとルルの顔を見ると、満面の笑顔でクララが駆け寄って来た。
クララの言葉を聞いたのか、ドロシーたちの気配を感じたのか、ジョセフも二階から一階に降りてきたようだ。
「ドロシー殿、ルル殿。今日は我が家まで出向いてくれて、心から感謝する。今日は
仕事着の白いシャツではなく、フリルの無いシンプルなネイビーのシャツを来て、ジョセフはドロシーたちを温かく出迎えてくれた。
ジョセフがドロシーとルルの
クララやジョセフの声を聞き、止まり木で居眠りをしていたロニーも起きたようだ。急いでクララの肩に移動すると、慌ててドロシーとルルに挨拶したのだった。
使い魔たちを含め、ウォード家が全員集まった後、ドロシーとルルは玄関の横に飾られたオリビアの肖像画の前に向かった。
ドロシーとルルの背後、少し離れたところにウォード家の面々が立っている。
イスに座っているオリビアの肖像画は、外からのわずかな光で照らされていたが、ドロシーは実際に彼女の肖像画を拝見して、オリビアの女神のような
全身が描かれた肖像画のオリビアは、スカイブルーの優しげな
また、彼女は子どもであるクララとサイモンと顔がよく似ているようだ。
それに、
「ドロシー。気を張り過ぎないで、いつもみたいに自然体でね」
ルルが声をかけると、ドロシーは返事をして、オリビアの肖像画の修復を始めたのだった。
ドロシーは数回、深呼吸をした。次に修復前の肖像画から放たれている青い光を確認した後、指を閉じた右手を胸に手を当てながら、両目を閉じたようだ。
そうして集中力を高めつつ、肖像画の傷や汚れが徐々に消えていき、描かれて間もない頃の色彩や光沢を復活させる過程を、ドロシーは真剣かつ慎重にイメージしていった。
(オリビアさんが実際にそこに居るように感じられるくらい、とてもっ……とても
……と、ゆっくりと両目を開けて、ドロシーがオリビアの肖像画から放つ青い光が消えているのを確かめようとした時には、その肖像画は傷も汚れも一つも無い状態になっていたのだ。
まるで「お帰りなさい」と言っているかのように、肖像画のオリビアは穏やかに微笑んでいる。
「オリビアッ!! うう、オリビアッ! 私の、オリビア……」
業務の段取りとして、ドロシーが修復対象の傷や汚れが残っていないかを確認しようとしたが、その前に泣き崩れていたジョセフがオリビアの肖像画に駆け寄ってきたらしい。
愛する亡き妻の肖像画が見事に修復されたことに、ジョセフは大変感動したようだ。
「あああぁぁ〜。お父様の美しいお顔がっ!!」
大粒の涙で
すると、ジョセフはクララの言葉には反応せず、ドロシーの方を見つめながら、感情を高ぶらせたまま思わぬ発言をした。
「ドロシー殿っ。いや、修復魔術士、殿! 本当にっ、本当にありがとうっ!!
それからっ……、君がもし我が息子を快く受け入れてくれるのなら、末永く
「……え、ええっ!?」
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