Episode.04


「な、んで──?」


喉から変な音がした。何故、分かった。

何故、言ってもない。言えなかったことをしっている?


「何でって。……三日月堂に来る人は君みたいな子が多いからさ」


飾れた言葉ではない、本物の言葉が心の中へ落ちる。嗚呼、嫌だ。せっかく、分かったと言うのに。青年のどこまでも澄んだ瞳が〝逃がさない〟と言うふうに追い立てて来る。


「……還り、たくない」


「いいや、君は還らなくちゃ駄目だ」


「……嫌、嫌…!」


弾けんばかりの愛。愛、愛がほしい。愛が。


「だって、誰も私を──!」


青年の微かに息を吐く音ときみの声が鼓膜を包んだ。


「僕は愛してる。愛しているよ、君を」


三日月堂を訪れた時と同じ、きみと青年の瞳が重なる。離そうと思うのに、離せない。気づけば、わたしは。


「うわああああああああああああ!!」


雫が溢れ返っていた。空には三日月が見守るようにきらきらと瞬いていた。


三日月堂。


それは還らない者を店主及び黒猫が極上のもてなしを持って『向こう』へと還す場所である。


「君に幸あれ。ぼくはここで待っているから」


──還ろう。一緒に。

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三日月堂へようこそ 逢坂 晴月 @AMAGAI0406

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