三日月堂へようこそ

逢坂 晴月

還る者と還される者

Episode.01

『三日月堂へようこそ』。


黄昏色に輝く看板。ひんやりとした空気。

何もかもが新鮮に思えた。足元に目を向ければ〝きみ〟と目が合って。こそばゆいような気がして看板に意識を集中させた。


「──いらっしゃい」


中から聞こえた、優しい声。


店主にしては若すぎると思いながら「こんにちは」と挨拶をする。


「こんにちは。珍しいね、誰かと一緒に来るなんて」


その人は〝きみ〟と同じ目をしていた。

目を細めながら、その人は言った。珍しいと。何が珍しいのか分からなかった。

けれど数分してから理解した。珍しいと言ったのは〝きみ〟のことだった。


「……あの」


躊躇いがちに口を開く。上ずった声が喉から絞り出されているお陰か、顔が火照ってゆく。暑いと思いながらも言葉が途切れることはない。その人は黙って聞いていた。


「何かな、お嬢さん」


まるで私が訊ねることを予知していたかのように。さも当然であると言う雰囲気で。


「この子は貴方の、猫なんですか」

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