Episode.02


その人の瞳が僅かに見開かれる。だがそれは私の気の所為だったのかもしれない。


「厳密に言えば僕の…ではないけれど、良い友人ではあるかな」


〝きみ〟はいつの間にかその人の膝の上にいて、心地よさそうに瞳を閉じている。

撫でられるのが好きなんだろう。薄らと私はその様子を見て別のことを思った。


ずっと黙ったままで、鳴かない。

何故、鳴かないのだろうと。


見兼ねた私はその人に訊ねていた。


「貴方は誰なんですか」


その人は又、目を細めると囁くよう声で答えたのだった。


「僕が誰であるか、この街に住んでいるのなら知っている筈だよ」


この街には『ある噂』が絶えず飛び交っている。


『三日月堂に行くと気持ちが軽くなる』


『店主が街に降りることは滅多にない』


『猫を見るといい事が起こる』


……など。どれも考えてみれば普通の事だが。しかし。これが実際に体験したと言うのだから信じない訳にはいかないだろうと思いながら、私は口を開く。


「それじゃ、貴方が」


「嗚呼、君が思っている通りだよ」


その人──青年が言う。


私が思っている通りの奴であると。


青年は尚もきみを撫で続けている。私は何と答えたら良いのか分からずに今度は黙ってしまう。視線だけは行ったり来たりとしていたが。分からなかった。

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