インタビュー ウィズ ヴァンパイア

 この作品が映画化されたときには、もう舞い上がるような気持ちでした。

 前段階として、本作の原作アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』がモダンホラーセレクションに収録されたとき、(1987年)書店にいまかいまかと通い詰め、発売されれば何度読み返したことか、みたいな勢いでした。

 ええ、このシリーズ、レスタトが主人公ってことになってますが、私はルイが好きなんです。

 で、映画化されて、三回くらいは劇場に行きました。まだ当時大学生だったんで、そんなに小遣いの余裕もなく、三回だけでしたが……

 私、この作品のおかげで原作の訳者の田村隆一の全集買ったり、ニール・ジョーダン監督の作品を追っかけたりしました。


「インタビュー ウィズ ヴァンパイア」

 原題:INTERVIEW with the VAMPIRE

 1994年製作(米)

 日本版DVD・BD有

 日本語吹替あり

(DVD収録吹き替えとは別にTV放送時収録の吹き替えも存在する模様)

 監督:ニール・ジョーダン

 脚本:アン・ライス

 原作:アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』

 レスタト:トム・クルーズ(鈴置洋孝)

 ルイ:ブラッド・ピット(平田広明)

 ダニエル・マロイ(インタビュアー):クリスチャン・スレーター(家中宏)

 クローディア:キルスティン・ダンスト(本多瑛未里)

 ジャンル:ホラー

 時代背景:十八世紀末アメリカ・ニューオーリンズ/二十世紀アメリカ・サンフランシスコ



『あらすじ』

 サンフランシスコのビルの一室。

 インタビュアー、マロイがひとりの男に話しかけている。「職業は?」とマロイが聴くと、男は「ヴァンパイアだ」と答えた……


 ニューオーリンズ近郊の農場主だったルイは、妻をお産で亡くし、人生に絶望し、荒れた生活をしていたが、そこで出会ったのはヴァンパイアのレスタトだった。

 レスタトはルイを闇の人生へ誘った。

 ルイの血を吸い、自分の血を与え、ルイを吸血鬼に変えると、「ヴァンパイアの目で夜を見ること」を教えたのだ。

「殺しも慣れだ」というレスタトに、ルイは反発を覚えつつも、新しい生活の指南役として依存せざるを得ない。

 一晩にふたり、三人と、享楽的に殺すレスタト。

 動物の血だけで生きようとするルイ。

 農場主としての格式ある生活は、奴隷たちの反乱で幕を閉じた。

 食事に手を付けない、昼間の奴隷の監督にも来ないルイのようすを、奴隷たちが不審に思ったのだ。

 ルイは屋敷を取り巻く奴隷たちに「死にたくなければ逃げろ」と警告し、自分の屋敷を燃やした。ルイとレスタトはニューオーリンズで生活を始めた。

 折しもニューオーリンズはペストが蔓延している。

 レスタトと殺しのことで諍ったルイは、町を彷徨い、母親が亡くなっていることに気づかず泣く少女を抱きしめ、血を吸ってしまう。

 ルイを追ってきたレスタトは、少女に自分の血を吸わせ、少女を吸血鬼に変えた……

 少女の名は、クローディア。


『物語のあれこれ』

 それ以後に制作されるそのジャンルの映像作品の傾向に影響を与えた作品、というのが、どんなジャンルにも存在すると思うのですが、この作品もそうだと思います。

 これ以後に制作される吸血鬼映画のおおくが(TVドラマ作品含む)「吸血鬼たちのコミュニティ」について強く意識することになります。

 もちろん、本作以前の作品においても、吸血鬼たちのコミュニティや、コミュニティを形成する吸血鬼たちの気持ちなど、彼らの社会生活や内面について踏み込んだ作品はありますが、影響力が強かったのは本作でしょう。

 また、時代の要請として、「外界からの悪の侵略とそれに立ち向かう正義の人間たち」ではなく「異端者の孤独と共同体」の物語が求められていた……というのもあるのではないかと思います。

 本作は、興行収入の歴代ランキングなどでは、強力なヒットとはなっていませんが(とはいえ、興行収入は制作費六千万ドルの三倍超の二億二千万ドルとまずまず)、映画公開ののちも、DVD,BDが息長く発売されています。


 ルイに、ブラッド・ピット、レスタトにトム・クルーズ。アーマンド役にアントニオ・バンデラス。

 見目麗しいスターの共演、というだけで溜息ものですが、加えてセット、衣装、髪型に至るまで、どこをとっても美しい。

 幼い容姿に煌めくような知性と、成熟した女性の思考を秘めた、永遠の少女クローディアを演じた、キルスティン・ダンストの演技もいい。

 ルイジアナの農場主としての格式ある生活を営んでいた屋敷、贅を尽くしたニューオーリンズの一角のアパルトマンの室内、夜ごと舞踏会も開かれるようなパリの高級ホテルでの暮らし……。

 シーンごとに時代が変わり、時代が変わるごとに徐々に変遷してゆく衣装などのデザインを含め、必見です。

 本作の吸血鬼は、日光に当たると灰になります。昼間は深い眠りに落ち、ゆえに昼の眠りを邪魔されないために柩が必要です。

(柩でなくても、昼間の安全が確保できるような状況なら良い)

 首を切り離したり、胴体を切断するなどすれば滅びますが、一見、干からびて『死んで』いるように見えても、血を得られれば蘇ることもあります。


 本作の特徴は、「人間世界」が背景の扱いになっているところでしょう。

 人間の登場人物は多数いますが、基本的には吸血鬼の「食糧」、あるいはモブの域を出ません。

 インタビュアーのマロイは人間ですが、ルイの聞き役で、ルイの昔話には影響を与えません。

 『人間』は、思慕の対象ではなく、狩人でもないのです。

 ルイが語る物語は、愛も、憎しみもすべてが吸血鬼のコミュニティ内部のことなのです。

 吸血鬼が愛するのは、同族としての吸血鬼。

 吸血鬼を憎み、滅ぼそうとするのも、吸血鬼。

 人間は捕食の対象でしかなく、もし、ルイがマロイのインタビューに応じていなければ、人間が決して知り得なかった……『人間とかかわりのない物語』。

 さらに突き詰めると、物語のラストで登場し、マロイの血を吸うレスタトが、ルイが物語の中で回想したレスタトの印象と微妙に違っているところから、マロイがルイから聴いた物語は、あくまでも『ヴァンパイア・ルイの物語』であり、レスタトにはレスタトの視点と物語があることにも想到できます。

 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」は、『吸血鬼のコミュニティと、ルイの内面の物語』なのです。

 このように書くと、この物語の特殊性がはっきりとするのではないでしょうか。

 本作で『人間』の存在が多少なりとも重要だと感じられるのは、「ヴァンパイアになりながらも、ルイが戻りたい」と感じている存在だからにほかなりません。

 そして物語の結論としては、「人間には戻れない自分を受け入れて、ヴァンパイアとして生きていく」。

 この「ヴァンパイアの物語」を際立たせるためか、原作にあった、レスタトの父親の存在(レスタトがルイを吸血鬼にしたあと、ルイの屋敷に連れてきた彼の人間の父親)や、ルイの親族(宗教家の弟)、バベットの存在(吸血鬼となったルイが気に掛けている近くの女荘園主)は、省略されています。

 独特な視点の物語ではありますが、本作が魅力ある物語なのは、現在でもDVDやBDが版を重ねていることからも明かでしょう。

 なお、インタビュアーのマロイ役には、当初、リバー・フェニックスが予定されていましたが、撮影に入る前に彼が亡くなったためにクリスチャン・スレーターが急遽、マロイ役に配されました。

 彼が不慮の死を遂げた時点でマロイのシーンは、ワンシーンも撮影されていなかったため、本作はリバー・フェニックスの遺作ではありませんが、エンドロールの最後にリバー・フェニックスがクレジットされているのは、このような事情によります。

 原作でもそうなのですが、ルイは物語の要所で「火を放ち」ます。自身の住んでいた農園の屋敷、レスタト、ヴァンパイア劇場……

 ルイは近代を生きる者を体現する、近代精神の象徴としても描かれていることから、彼の「放火」は「古いものを破壊せずにはいられない」、近代文明の暴力性を表しているのかもしれません。


 【続編情報】

「クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア」

 配役も、監督も総入れ替えの続編。

 アン・ライス原作「ヴァンパイア・レスタト」「呪われし者の女王」に該当する部分です。

 レスタトを主人公とする物語。

「ビザンチウム」

 2012年に公開されたニール・ジョーダン監督の吸血鬼映画。モイラ・バフィーニ作の舞台劇が原作。


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吸血鬼映画の話をしようか 宮田秩早 @takoyakiitigo

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