吸血鬼ドラキュラの花嫁

 二十年ほどまえだったか、『ハマー・フィルム怪奇コレクション』と銘打たれたDVDボックスが発売されまして、そのなかにクリストファー・リー主演のドラキュラもののおもだった作品やら、ハマーの異色吸血鬼映画は収録されたんですよね。

 ここに収録された作品は、その後単巻販売されたりして、息長くDVDとして売られました。

 ところが、このなかにクリストファー・リー主演『吸血鬼ドラキュラ』の続編として製作されたこの『吸血鬼ドラキュラの花嫁』は収録されなかった。

 のち、一癖あるレトロ映画をDVD販売する(我々のような者にとっては神のような会社)株式会社スティングレイが、TV放送時の日本語吹替も2種類、発掘収録したこだわりのDVDを販売しました。

 ただ、DVDの販売権は期間限定だったんだと思いますが、数年後には販売終了。いまはプレミア価格で売られています。

 こういう視聴しにくい作品、映像サブスクに入らないものかなと思いますけど大人の事情で難しいんでしょうね。


 本作のマインスター吸血男爵は、マイナーですが、菊地秀行著『Dー北海魔行』をお読みの方は名前だけはご存じのはず。

 あと、作中に出てくるマインスター男爵の母上のある仕草は、同じく菊地秀行著マンサーチャーシリーズでDr.メフィストがやってましたね。

 まあそんなこんなで、菊地御大は本作、わりとお好きなんじゃないかと思ってます。


「吸血鬼ドラキュラの花嫁」

 原題:The Brides of Dracula

 1960年製作(英)

 日本版DVD有

 日本語吹替有(2種類ともDVDに収録。ただし吹替放送時にカットされていた部分については字幕に切り替わる)

 監督:テレンス・フィッシャー

 脚本:ジミー・サングスター/ピーター・ブライアン/エドワード・パーシー/アンソニー・ハインズ

(吹替声優表記は、前者がTBS版、後者がCX版)

 ヴァン・ヘルシング:ピーター・カッシング(小林昭二/小林昭二)

 マインスター男爵:デヴィット・ピール(富山敬/宗近晴見)

 マインスター男爵夫人:マーティタ・ハント(西乃砂惠/川路夏子)

 マリアンヌ・ダニエル:イヴォンヌ・モロー(西沢和子/増山江威子)

 グレダ:フリーダ・ジャクソン(稲葉まつ子/麻生美代子)

 ジャンル:ホラー

 時代背景:1900年前後トランシルヴァニア


『あらすじ』

 女学校に赴任予定の教師、マリアンヌは、赴任先の女学校に向かう旅の途中、宿がなくて困っていたところ、マインスター男爵夫人に、彼女の城に泊まってゆくよう勧められる。

 夫人と召使いのグレタだけで暮らすという寂しい城。

 しかし、マリアンヌは城に住む若い男の姿を見留める。

 夫人に尋ねると、その男は心を病んだ夫人の息子だという。

 マリアンヌは男爵と密会。

 男爵は、「すべてを相続したのは私だが、母親が私の相続した財産を横取りしたのだ」と話す。男爵に助力を約束するマリアンヌ。

 男爵は自分の足に枷がはまっていることを見せ、母親が隠し持っている鍵を探し出して欲しいと依頼する。

 鍵を見つけ出し、男爵に渡すマリアンヌ。

 一方、鍵がなくなったことを知った夫人の顔色が変わる……

 マリアンヌを問い詰める夫人のまえに、息子が現れ、夫人は息子とともにどこかへ行く。

 ひとりになったマリアンヌの耳に響くグレタの哄笑。

 グレタの指し示す椅子にぐったりともたれるマインスター男爵夫人は亡くなっていた。

 実は男爵夫人は吸血鬼に魅入られ、魔道に堕ちた息子を愛し、吸血鬼となった息子を拘束はしたものの、息子のために定期的に食糧になる若い娘を城に連れ込んでいたのだ。

 マリアンヌも、食糧になるはずだったのだが……。

 グレタは、男爵夫人の破滅はすべてはおまえのせいだとマリアンヌに告げる。

 グレタの異様な言動、死んだ男爵夫人……あまりのことに城を逃げ出すマリアンヌ。

 翌朝、道に倒れるマリアンヌを、旅の男が救う。

 マリアンヌを救った男の名はヘルシング博士。

 医師であり、人間の心と体を蝕む不死者の呪いについて研究しているという。

 ヘルシングはマリアンヌを女学校に送り届け、村に戻って彼を呼んだ神父に会う。神父は村に起こる吸血鬼事件についてヘルシングに相談しようとしていたのだった。

 折しも村の若い娘がひとり、変死を遂げていた……


『物語のあれこれ』

 クリストファー・リーがドラキュラを演じた前作「吸血鬼ドラキュラ」(1957年・英)の大ヒットをうけて制作された第二弾。

 前作でドラキュラを滅ぼしてしまったので、ドラキュラ伯爵に続く不死者マインスター男爵を登場させた作品。カッシング演じるヘルシング博士は続投。

 物語的には、「ドラキュラを滅ぼしたヘルシング博士。不死者研究の第一人者の不死者との戦いの旅は続いている」という趣です。

 ハマープロダクションとしてはこの路線で続けたかったんだと思います。旅先で遭遇する邪悪な不死者との戦い。

 クリストファー・リーも、自分のイメージがドラキュラに固定化することを嫌い、続編への出演に難色を示していたらしい。

 しかし、残念ながら本作の興行成績が思ったほど上手くいかなかったことから、次作ではクリストファー・リーのドラキュラが復活を遂げることになります。

 興行成績の問題に関しては、私など、題名も悪かったのでは? と愚考しますよ……たしかに「ドラキュラ」のネームバリューにあやかりたいのは分かるんですが、ワンカットすら、ドラキュラの名前や存在を示す台詞すら出てこないのに(マインスター男爵を不死者の世界に誘惑した不死者がいることは匂わされているにしても)「The Brides of Dracula」と銘打てば、やはりドラキュラを期待しますよね?


 題名の問題はさておき、作品としては非常に良いと思います。

 ヘルシング博士の切れの良いアクション、凜々しく鋭い眼光。親子の絆のために魔道に堕ちた息子を見捨てられない男爵夫人(正しくは前男爵夫人)の苦悩と悲劇的な末路。

 ユニヴァーサルの「魔人ドラキュラ」に登場するドワイト・フライ演じるレンフィールドにも通じるマインスター城の召使いグレタの狂気。

 マインスター吸血男爵も、リーの演じた尊大なドラキュラとはひと味違い、いかにも才気走り、甘言を弄して若い女性を誘惑するさまはなかなか見物です。

 なにより、この作品は前作「吸血鬼ドラキュラ」に引き続き続投したフィッシャー監督、サングスター脚本の、あのテンポの良い、息もつかせぬ展開が健在なのですよ!


 本作の吸血鬼の特徴は、日中は柩で眠り、十字架や聖水を嫌います。滅ぼす方法は心臓に杭を打つ、炎で燃やす。

 前作ではヘルシング博士、「蝙蝠に変化するという噂は、迷信だ」と仰ってましたが、その後、「蝙蝠に変身するタイプ」も見つけたようで「不死者の特徴として、蝙蝠などに変身する」と仰ってます。(そしてマインスター男爵は蝙蝠に変身する)


 非常に細かなことを気にすれば、蝙蝠に変身できるマインスター男爵は、どうしてマインスター城で足枷ひとつで幽閉されていたのか?

(しかも、マインスター男爵の犠牲者のひとりは、錠前を鍵なしで開ける能力を持っているのに!)

 ラスト、風車小屋の羽の影が十字架になっていたけれど、実際は風車小屋の建物部分が邪魔をしてあんなに綺麗な十字架の影はできないのでは?

 前述の前作では「不死者は蝙蝠などに変身しない設定」になっていたのに本作では変身するというシリーズの不整合なども在るわけですが、そのあたりは勢いで流してしまいましょう……

 気にしなくても楽しめるだけの勢いが、この映画にはあります。

 フィッシャー&サングスターの職人芸的テンポの良さと、カッシングの勇姿、甘いマスクと優雅な物腰で女性を誘惑するマインスター男爵等、「これぞハマープロダクションのホラー映画!」の醍醐味を味わえる本作は、「吸血鬼ドラキュラ」に続くシリーズ作として充分な完成度を持っていると言えましょう。

 機会があれば是非、ご覧になってください。


【続編情報】ハマープロダクション製作のドラキュラもの

「吸血鬼ドラキュラ」

「凶人ドラキュラ」

 クリストファー・リーの演ずるドラキュラ復活作。

「帰ってきたドラキュラ」

「ドラキュラ血の味」

「ドラキュラ復活・血のエクソシズム」

「ドラキュラ'72」

「新ドラキュラ/悪魔の儀式」

「ドラゴンVS7人の吸血鬼」

 ドラキュラは登場しますが、リーがドラキュラ役からの引退を表明していたため、ドラキュラは違う役者が演じています。




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