吸血鬼ドラキュラ
もうちょっとマニアックなところから始めてもいいのかもしれませんし、もっとこだわりをもって『日本未公開作を語る』とかにしてもいいのかもしれない。
吸血鬼映画を語るなら1922年の『ノスフェラトウ』からはじめ給え、とかルゴシの『魔人ドラキュラ』を飛ばしてリーとはなにごとか、とか、コッポラの『ブラム・ストーカーズ ドラキュラ』は? とかいやいや『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』でしょう? とか、『アンダーワールド』じゃないの? とか、興行収入からいけば『トワイライト』シリーズも捨てたもんじゃないよ、とか、日本発の『女吸血鬼』から始めるのが筋では? とかもうすぐ『陰陽師0』公開されるし監督繋がりで『ヴァージニア』いっとけよ、とか、カクヨムで連載するなら最近作の『レンフィールド』は? とか、ご意見のある向きもあろうかと思いますが、趣味の問題だと言うことでなにとぞ勘弁を。
原題(英 Dracula)
(米 Horror of Dracula)
1957年製作(英)
日本版有DVD
日本語吹き替え:吹き替えをTV放送したことがあるはずだが、販売されているDVDには吹き替え版収録バージョンはないと思われる。
監督:テレンス・フィッシャー
脚本:ジミー・サングスター
原作:ブラム・ストーカー
ドラキュラ伯爵:クリストファー・リー
ヴァン・ヘルシング博士:ピーター・カッシング
ジャンル:ホラー
時代背景:十九世紀末・ドイツ(?)
『あらすじ』
ジョナサン・ハーカーはドラキュラ城で司書として雇われる。しかしジョナサンの真の目的は別にあった。
ジョナサンは長年に渡る調査により、ドラキュラ伯爵が吸血鬼であることを知り、彼を滅ぼすためにやってきたのだ。
しかし、ジョナサンはドラキュラの毒牙にかかり、吸血鬼となってしまう。
ジョナサンの消息を追ってヘルシング博士がドラキュラの城にやってくる。
折しもドラキュラ城から出て行く馬車の上には白い棺が載っていた。
入れ替わりにドラキュラ城に潜入したヘルシング博士は、城の地下室に眠る友人の変わり果てた姿を見て、永遠の安息をもたらすべく、手に杭を持った。
ジョナサンに魂の安らぎを与えたヘルシング博士であったが、ドラキュラの姿は城になく、ヘルシング博士のドラキュラ追跡が始まるのだった。
『物語のあれこれ』
吸血鬼映画史の金字塔のひとつと言っていいんじゃないかと思います。
イギリスのハマープロダクションが作成した、カラー映像で作成された最初期の吸血鬼映画。
テンポの良い脚本、ドラキュラの滅びるシーンをはじめとした劇的な演出、リーとカッシングの演技力。
ハマー・カラーと呼ばれる色味のはっきりとした、すこし赤みの強い、それゆえ血の紅が鮮烈に印象に残る映像。
この映画の吸血鬼は、日中は自分の棺で眠る必要があり、日の光に当たると灰になり、ニンニクを避け、十字架を恐れます。また、吸血鬼、または吸血鬼の犠牲者の肌に十字架が触れると、焼きごてを当てたように焼けただれます。
血を吸われた者の肉体は、邪悪な吸血鬼の魂に乗っ取られ、それを滅ぼすためには抜け殻となった人間の肉体を壊す……心臓に杭を打たねばならない。
狼や蝙蝠に変身する能力を持つというのは俗説で、変身能力はない、という設定です。
原作のストーカーの「ドラキュラ」では、ドラキュラは能力に制限はあるものの、日中もそれなりに自由に行動できるのですが……映画界に進出して、吸血貴族たち
はおおむね日光には弱くなりました。
日光が射した瞬間、苦悶し、灰になったり燃え上がったり……視覚効果として印象に残るからでしょうか。
ただでさえ弱点が多いのに、難儀なことです。
寝室で美女を襲うエロティシズム、知らぬうちに自分の家族が化け物の仲間となっているサスペンス、胸に杭を打つシーンに際立つ残酷描写……書き連ねるとショッキングですが、実際の映像は、どこまでも過激になっている現代の描写と比較すればマイルドにも思えます。
(寝室で美女の血を吸うシーンは、そのマイルドさゆえに濃く香り立つエロティシズムを醸していて良いのですよ!)
時代が移っても古びないこの作品の最大の見所は、テンポの良い脚本でしょう。
ジョナサンのドラキュラ城潜入から彼の破滅、ヘルシング登場とジョナサンの魂の救済、ヘルシング博士によるジョナサンの婚約者ルーシーの家族への哀しい報告…
…しかしそのときにはすでにルーシーはドラキュラの毒牙にかかっていた……と、緊張感が途切れることなく続き、目が離せない。
脚本の密度を上げるために、原作にあった登場人物……レンフィールドやアメリカ青年キンシー・モリス等、省略された人物は多い。
また、本来ミナの婚約者だったハーカーが、ルーシーの婚約者になっている、ミナはアーサー・ホルムウッドの妻になっているなど、人間関係の改編も多数行われて
います。
また、狼や蝙蝠への変身は迷信だとして、当時、黎明期だった特殊メイクや特撮を多用しなかったことで、不死の怪物にリアリティを与えたことも勝因でしょう。
(ただしドラキュラ最期のシーンの気合いの入った特撮は必見)
特殊効果をあまり使わない代わりに活躍しているのが、クリストファー・リーとピーター・カッシングの両俳優の演技。
人間の皮を被った不死の怪物……尊大ながらも物腰柔らかな姿に、垣間見える気味の悪さ。
怪物を滅ぼすためには友人の心臓に杭を打つこともためらわない理性と行動力の博士の、刃物のように鋭利な表情。
後半に移っても物語には冗長な部分がありません。
遊びの部分がないのかといえば、そうではなく、ドラキュラの隠れ家探索のときの葬儀屋とヘルシング一行のやりとりや検問所の番人とのやりとりなど、にやりとできるネタもあります(検問所の番人はドラキュラ逃走。のシーンでも出てきて、小ネタを効かせて笑わせてくれます)
個人的には、終盤、城に戻ってきたドラキュラが、城の前の庭で猛然とスコップで穴を掘ってミナを埋めようとしてるのですが、そのシーンをどう解釈すれば良いのかよく分からないのが最大の笑いネタポイントなんですけどね!
(ものすごくスピーディーな展開の、ほんの少しのカットなので、なんとなく「そんなものだ」と思って見てしまいますが、よく考えると分からない。ミナを生き埋めにすることでヘルシング一行へ報復しようとした?あるいは……犬が好物の骨を穴掘ってかくすような……? まさか……)
なお、ハマープロダクションの映画は、低予算で作られており、メインの出演者の多くは月給制で雇われていたため、多くの映画に同じ俳優・女優が登場します。また、セットの使い回しも多いです。
そういう点に着目して映画を見るのも、ちょっとマニアックな楽しみだと言えましょう。
【続編情報】
「吸血鬼ドラキュラの花嫁」
原題を含めドラキュラと銘打っている割にドラキュラが出てきません。ドラキュラの弟子、マインスター吸血男爵とヘルシング博士の戦い。
「凶人ドラキュラ」
クリストファー・リーの演ずるドラキュラ復活作。
「帰ってきたドラキュラ」
「ドラキュラ血の味」
「ドラキュラ復活・血のエクソシズム」
「ドラキュラ'72」
「新ドラキュラ/悪魔の儀式」
「ドラゴンVS7人の吸血鬼」
ドラキュラは登場しますが、リーがドラキュラ役からの引退を表明していたため、ドラキュラは違う役者が演じています。
初作『吸血鬼ドラキュラ』の目を見張る成功で、ハマープロダクションは続編を作りますが、リーなしの続編では充分に観客を満足させることが出来ず、その後の続編では手を変え品を変え「ドラキュラの復活方法と滅ぼす方法」の考案に苦しむこと
になります。この続編の「復活方法と滅ぼす方法」は見所のひとつです。
ハマーホラーでは、他にカーミラを題材にした女吸血鬼ものやドラキュラ・カーミラとは一線を画した新機軸ヴァンパイアホラーなどの作品も多数作成されています。
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