DRACULA(2013-2014TVドラマ版)
先に言っておきます。打ち切り作です。さらに言えば日本盤はありません。
私、この作品めちゃくちゃ好きなんですけど、さすがに打ち切り作品を輸入して日本語字幕や吹き替え音声をつける経費をかけて売りだそうって会社はない。
でもいいんですよ、この作品……ドラキュラとヘルシングが共闘してるんですよ!? それだけで興味引かれません?!
「Dracula」
2013ー2014年製作(米)TVドラマ
全10話
副題
"The Blood Is the Life"
"A Whiff of Sulfur"
"Goblin Merchant Men"
"From Darkness to Light"
"The Devil's Waltz"
"Of Monsters and Men"
"Servant to Two Masters"
"Come to Die"
"Four Roses"
"Let There Be Light"
海外版のみDVDおよびBDあり
監督:Steve Shill ほか
原作:ブラム・ストーカー
ドラキュラ(ヴラド・ツェペシュ):
Jonathan Rhys Meyers
ヘルシング:Thomas Kretschmann
ミナ:Jessica De Gouw
ルーシー:Katie McGrath
レディ・ジェーン:Victoria Smurfit
ジョナサン・ハーカー:Oliver Jackson-Cohen
レンフィールド:Nonso Anozie
ジャンル:ホラー/ラブロマンス
時代背景:十九世紀末イギリス
『あらすじ』
十九世紀、とある地下墓地。
ある目的でなにかを探しているヘルシング。
探索の甲斐あって、ヘルシングは「それ」を見つける。
古めかしい石棺に眠るのはミイラ化した男の遺体。
しかしそれは死者ではなく、吸血鬼……十五世紀に串刺し公として恐れられたヴラド・ツェペシュ……ドラキュラだった。
よみがえったドラキュラに、ヘルシングはひとつの提案をする。
*
十九世紀末ロンドンにひとりの男が現れる。
アレクサンダー・グレイソン。
アメリカ人実業家を名乗る彼こそ、よみがえったドラキュラであった。
ドラキュラは発明を事業化するための事業資金を集めるパーティを開き、イギリス上流階級に食い込む。
しかしその真の目的は、十五世紀に自分を陥れて恋人を魔女であるとして火あぶりにし、また、異端の儀式の実験材料として吸血鬼に変えて嬲った、ドラゴン騎士団の子孫に復讐するためであった。
ドラキュラのかたわらには、アメリカで命を救った黒人奴隷のレンフィールドが執事として、ドラキュラをよみがえらせたヘルシングが、ドラキュラを人間に戻す研究者として、影のように仕えている。
ある事業資金獲得パーティの夜、ドラキュラは無実の罪で火あぶりにされた恋人とうりふたつの娘、ミナに出会う。
『物語のあれこれ』
見所は多く、楽しめる作りでありながらも打ち切り作であると思われます。シーズン1としてDVDおよびBDが発売されていますが(海外版のみ)シーズン2以降は製作されていません。
原作であるブラム・ストーカーの「ドラキュラ」では、狩る者と狩られる者である関係のヘルシングとは、共闘で始まる本作ですが、のちの敵対を暗示して物語は幕を閉じます。
*
打ち切りになった原因である「戦犯」探しは、当方の任ではありませんので、そのあたりはご覧になるみなさまの判断に委ねることにします。
だいたい、アメリカのTVドラマって、一定の水準以上のシナリオとキャスト、予算も使って製作されているので、人気になるかならないかは運の要素もあると思います。
十九世紀ロンドンのセットと衣装関係は、歴史的事実に完全に忠実に作っているわけではないのですが、かなり予算をかけて、豪華に作っています。
紳士方のタキシード、淑女方の豪奢で可憐なドレスを観ているだけで幸せになれます。
*
この作品のシナリオ的な見所は、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」を下敷きにし、「ドラキュラ」の登場人物を使いながらも、物語を「東欧の怪物のロンドン侵略」から「かつて陥れられた男の復讐譚」にしたところでしょう。
このおかげで原典「ドラキュラ」を知っている人でも、原典のモチーフがどこに出てくるかを追いつつ、新しい物語を楽しめまず。
また、ドラキュラは人間に戻りたいと願いつつも、血への渇望は強く、次々と人を襲ってゆくわけですが、そういう人外の邪悪さと復讐譚が上手く融合していて、高慢で冷酷でありながらも感情移入できるダークヒーロー、ドラキュラの創造に成功していると思います。
ドラキュラが「人を操る」のが、魔術的な力や吸血による眷属化によってではなく、あくまでも権謀術数による人心掌握であるところは、シナリオをスリルあるものにしています。
ドラキュラ役がジョナサン・リース・マイヤーズである点もいい。
ヘンリー八世役を演じた「チューダーズ」でもそうでしたが、王族や貴族といった、影のある美貌を持つ、高慢で非情、けれども苦悩を抱えた役をやらせたら特に上手い役者さんです。
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ドラキュラはかつての恋人の生まれ変わりだと思われるミナと出会い、彼女のことを知ろうとしますが、知れば知るほど、現世では自分の存在がミナにとって意味のないものであることを知ります。
ミナは男性社会のヴィクトリア朝イギリスで医師を目指す志の高い女性であり、相思相愛の婚約者ジョナサン・ハーカーがいる。
ドラキュラのつけいる隙はないように見えます。
そしてドラキュラはそんなミナを、現世では自分とは結ばれない存在であると諦め、影ながら応援するのですが、それでも彼女を知れば知るほど惹かれてゆく自分を止められず、「一刻も早く人間に戻りたい」と願います。
ヘルシングが開発した器具を使用することによって、ドラキュラは短時間だけ、日光に耐えられるようになるのですが、最初にその実験に成功し、数百年ぶりに日の射す庭に出たドラキュラの幸せそうな表情といったら!
もちろんドラキュラはドラゴン騎士団に復讐を果たしたいのでしょうが、ミナと同じ存在……人間に戻りたいと心の底から思っているのが分かります。
医師試験に望み、不安に惑うミナに自信を持つよう助言したり、ジョナサンとミナ、ふたりの関係が上手くいくように(!)仲を取り持ったり、友人の裏切りを悲しむミナを慰めたり、ミナの幸せを願い、自分の気持ちを殺すドラキュラのかいがいしさ。
ミナに精神的な安らぎを求めつつもドラゴン騎士団の女刺客、レディ・ジェーンとのスリリングな肉体関係を続けるドラキュラの二律背反が、観ていて楽しい。
*
この作品の吸血鬼は、太陽の光に焼かれる存在です。
聖水は硫酸のような効果を持っています。
ドラキュラはドラゴン騎士団の陰謀により、人間から吸血鬼に作り替えられた「始祖」的な存在で、犠牲者の血を吸い、みずからの血を与えた者を吸血鬼に変えることが出来ます。物語時点で、ドラゴン騎士団が殲滅しようとしている吸血鬼たちは(すくなくとも一部は)ドラキュラの血族で、ドラキュラを利用してかつてのドラゴン騎士団が作り出した者たちのようです。
(つまり十五世紀当時のドラゴン騎士団は、自分たちでドラキュラを生み出し、危機を演出し、自分たちの価値を高めて自分たちの地位を確保し、現在に至っていると思われます)
物語は二転三転、ドラゴン騎士団の構成員の隙をついて殺し、みずから手を下すことなく陥れる(※)ドラキュラの攻勢のシーン、状況証拠からグレイソンが怪しいと睨んだドラゴン騎士団が日中に彼を呼び出して会合したり、レンフィールドを掠って拷問にかけたりといった守勢のシーンがどんどん切り替わり、なおかつそのあいだにミナとの逢瀬のシーンが入ったりで視聴者を飽きさせません。
このあたりの「盛ってる」感じはアメリカのTVドラマの本領と言えましょう。
※ヘルシングが同性愛者を仄めかして近づき、ドラゴン騎士団のメンバーの一人の性的嗜好を公にすることで、「ソドムの罪」を犯したとして、ドラゴン騎士団みずからにその同性愛者を殺させる。19世紀イギリス社会をドラゴン騎士団が体現し、その対立項としてドラキュラがいる。
ミナの幸せを願い、「化け物」である自分は身をひいているドラキュラ……という設定を始め、グレイソンの正体を知りつつ献身的に仕えるレンフィールドの危機を救おうとするドラキュラなど、非情な復讐者でありながら、情のある性格設定は、感情移入しやすい。
また、グレイソンがイギリス上流階級へ売り込む発明は、電気を利用する古色蒼然としたものながら、ジュール・ヴェルヌの発明っぽい近未来感もあります。
また、ドラキュラを短時間日光に耐えられるようにする処置は、電気を使い、フランケンシュタインの怪物の創造を思わせるところもあり、細かな部分で「ドラキュラ」以外の十九世紀の名作へ目配せをしているあたり、興味は尽きません。
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ミナへの思慕の情にもかかわらず、レディ・ジェーンと毎話、(視聴率をとるための都合で?)肉体関係を持つシーンが入るのは、まあ、好みの問題かとも思いますが、ミナとは結ばれることはないと、ドラキュラは諦めていたわけで、これはこれでありでしょう。
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最後の二話分くらい、残念なことにものすごく物語が駆け足なのは、おそらく打ち切り決定のためにお話を詰め込んだかと思われます。
そして一応のところドラゴン騎士団との決着はつくんですけど、仲間だったヘルシングとは対立し、ヘルシングはジョナサン・ハーカーと共闘する……つまり、原作ブラム・ストーカー「ドラキュラ」に物語は緩やかに回収されていくことを匂わせて、終幕。
え? そこで終わるの……!?
*
無理だとは薄々分かっているのですが、何度でも言いたい。
続編希望。
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