発達障害でもフルタイムのサラリーマンはできるのか

Mai-kou

第1話 凸凹なこども

単刀直入に言って、私は遺伝性、先天性の発達障害である。具体的にはADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)を併発している。過去に脳神経外科で受けた定量脳波検査では、神経生理学的正常時データと比較して、重度の部類であるという結果も出ている。


ADHDは「不注意」「衝動性」「多動性」といった特性が見られる発達障害、ASDは主に「社会的コミュニケーションや対人関係の困難さ」や「限定された行動、興味、反復行動」が見られる発達障害である。(LITALICO公式サイトより)


ASDの障害特性として、特定の行動へのこだわりが強かったり、同じ行動を繰り返す、などが挙げられる。

またADHDの中には、総合的な知能指数(IQ)は高いものの、能力の凹凸が激しいために診断を受ける場合もある。ある能力においてずば抜けていても、その他の能力は平均を下回るタイプも存在すると言われる。


自分は限りなくそのタイプに近いと思う。今振り返っても、子供の時から興味を持って没頭出来ること、誰よりもその能力を発揮できる場面は確かにあった。しかし反対に、どう足掻いても、自分以外の全員が当たり前にできることが自分だけどうしてもできないという場面にも幾度となく直面した。「できること」「できないこと」、自分の場合この両者の差が極端に開いていた。


たとえば自分は相対音感を持っていて、世の中の音という音は全てドレミファソラシドに聴こえる(学校の鐘の音、キーンコーンカーンコーンはミードーレーソー、といった具合に)。そして図像の記憶力が高く、4〜5歳頃から一度見た景色は絵を描くことで忠実に再現できた。


小学生の頃、テレビで流れて流行っている曲を、耳コピだけで鍵盤で弾いたり、アニメのキャラクターを真似て絵を描いたりしていたので、休み時間にはいつも自分の周りに友達が集まってきた。

音楽の授業ではクラスで一番最初に、鍵盤ハーモニカとリコーダーの教本を終わらせた。図工の授業で描いた絵は、コンクールで何度も金賞を取った。

楽器を弾くこと、絵を描くことには、寝ることも食べることも忘れて、いつまでも没頭した。


しかし反対に、計算すること、相手の話を理解すること、説明文を読むこと、人前で話すこと等々は大の苦手だった。苦手、というレベルではない。最早「できない」のだ。できないから、集中力は3分と持たない。

恥ずかしながら29歳になった今も、未だに小3以降の計算はできない。電卓を使えばいいじゃないかと言われても、そもそも電卓の使い方が分からない。「×」「÷」の意味が理解できないのだ。


そんな調子なので美術と音楽だけはクラストップの成績、算数に始まりその他の科目はいつも赤点だった。

その凸凹の弊害は勉強だけでない場面にも顕著に現れた。


先生の話す内容は殆ど理解できなかったし、例えば先生から指されて答えを発言したり、クラス全員の前に立って発表することも苦手だった。そんな場面に直面しようものなら、頭が真っ白になり、全身が震え、声が出なくなる。

先生から「何故説明したのに理解していないんだ、何故そんなに話せないんだ」と叱られたり、友達からも「話し方が変だ」とからかわれているうちに、聞いたり話したりすることに抵抗が強くなっていった。


周囲との何気ないコミュニケーションも難しい。

会話の文脈を無視していきなり違うことを話し始めたり、また友達が言う冗談を真に受けて突然怒り出したりして(これは衝動性という障害特性もある)、みるみるうちに距離を置かれる。「ノリ」とか「空気を読む」というものが全く分からないのだ。


自ずと小学校高学年の頃には、将来的に高校や大学に進学すること、一般企業に勤めること、つまり人とコミュニケーションを取って「普通」に生きていく事が、おそらく自分には無理なんだろうと、幼いながらにもぼんやり思うようになった。

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