第5話 二次障害



憧れの大学に入学したのも束の間、私は自分の身体に異変を覚えるようになる。

気分の落ち込みがとにかく激しく、何も出来ないほどの酷い無気力に襲われた。

最初は受験の燃え尽き症候群かと思ったものの、鬱々とした状態は何ヶ月も続いた。生きていても何も楽しみが無いと感じて自己肯定感はどこまでも下がってゆき、希死念慮は日に日に強くなる。気付いた時には自分の言動をコントロール出来なくなり、授業にも出られない日々が続いた。いよいよ誰とも口を聞けなくなり、部屋に閉じ籠り、遂にある日自室で自殺未遂を図ったが、ギリギリのところで友人に発見される。それがきっかけで強制的に精神科に連れられ、初めて双極性障害(=うつ病)と診断されるのだった。


19、20歳という、子供と大人の狭間で、それまでの自分の人生で感じてきた様々な感情が顕著に入り乱れるタイミングであったことも、一つ背景にはあるだろう。

今から大人になろうという年齢で、子供の頃から違和感を持ちつつも、どうも言語化できず蓋をしていた生き辛さが、受験という緊張状態が解けた瞬間一気に溢れ出してカオスとなって自分を襲ってきたような感覚だった。

受験生の間も実は生き辛さを感じる場面には多々直面していたが、受験というイベントに全ての意識を向ける全神経を注ぐことで、マイナスな感情に強引に蓋をしていたのかもしれない。私は何も気にしていないと、自分に言い聞かせていたのかもしれない。

「抑えつけてきたものが一気に破裂した」、そんな感覚だった。


発達障害とうつ病には深い因果関係がある。

発達障害の人は、子供の時から叱られたり、空気を読むことが苦手で対人関係に失敗したりして、周囲からの理解を得られずに孤立しがちな傾向がある。そのような経験を積み重ねていくと、自己否定の気持ちが強くなり、鬱々とした気分に陥ってしまう。こうして生じるのが、「発達障害の二次障害としての鬱病」。


実際、ある研究報告によると、自閉症スペクトラム障害の人の20~40%、注意欠如・多動性障害の人の20~50%がうつ病を併発しているといわれている。


後に初めてこういった情報をネットで目にした時、どれも自分に当てはまるものだとものすごく腑落ちしたのを覚えている。


とにかく何も出来なくなった私は、大学2年で一年間の休学を余儀なくされる。

全てを犠牲にする気持ちでようやく手にしたはずの憧れのキャンパスライフを思うように送れないことに、心の底から絶望し、中学生の時のような引きこもり生活に逆戻りしてしまう。

そしてこの時から、長い時間、この文章を執筆している今日まで、うつ病との長い闘いが始まる。

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