イマジナリー・ラジオ

kayako

たまにはローテンションな朝ラジオがあってもいい


 

『おはこんばんちわー、ヨーチューバー兼web作家の、さおでーす♪

 普段はweb小説サイト『小説をカケヨメっ!!』で、短編やエッセイや長編連載やりながら、時々このようにヨーチューブで雑談配信をしています!

 今日もいつもの雑談配信、さおラジオ! 始めていきたいと思いまーす♪』



『おぉ、皆さん本日も続々とコメントを頂き、ありがとうございます!

 視聴者数いつも1人2人なんですけど、コメント数は何故か既に100を超えてますねー、すごいですねー、ホラーですねー、いつもありがとうございますー。

 ホラーと言えば、1週間前に上げた短編! 久しぶりにホラーを書きました。読んでくださったかた、ありがとうございます! 現在のポイント、なんと!!

 見事、0ポイントでございます!

 久々のホラー短編、1週間経っても0ポイントw これこそホラーですねぇww』



『え、面白かった? ゾワゾワした? サイコなさお君っぽい? ありがとうございますー。

 泣かないで? ヘラらないで? いやいやこのくらい大丈夫だから!

 だってこないだ1000話め到達した大長編だって、未だに2ポイントだよ?

 なんかオレの中途半端さ出てるよねー、0ポイントじゃなくて2ポイントって。いや、ポイントくれたかたには本当に感謝感謝なんですけど、ここまで来たら1000話にして0ポイントの大記録作りたかったね~』



『あ、そうそう大記録といえばさ!

 この前応募したネット小説トップ賞の一次、結果出ましたね!

 オレ、新規で100作品応募したんだけどさ。今年も見事に一次通過ゼロ!!

 大記録打ち立てましたよ、10年連続100作品撃沈!!

 1割通過と言われる一次に、1000作品応募して通過ゼロですよ。

 逆に凄いと思わん? 逆に才能あるんじゃね?ってならん?』



『いや、だいじょぶだいじょぶ、泣いてないから。逆にここまできたら開き直りだよね!

 今度のコンテストもまた頑張っちゃおっかな。テーマが、なんだっけ、『夢』だっけ。

 夢っていえば今朝オレ、2回も出勤する羽目になったんだよね。どういうことか分かる?

 そう、朝起きて支度して玄関出て、何とかこれなら時間間に合いそうかな~?

 ってところで、夢から覚めたの。起きた時もう愕然よ。

 夢と同じようにもう一度暑い中起きて、朝ごはんの支度して、戸締りして、玄関出なきゃいけないの?って。ゼロからもう一度朝の支度しろってホントキツイよね~

 あ、これまたネタにしようかな。何度も何度も朝の支度しなきゃならない地獄のループもの。しまいには開き直って、どうせ夢だって会社に辞表叩きつけてついでに上司殴りつけるんだけど、その時だけは現実でしたっていう。え、ありがち?』





「……さん。

 早瀬さん!!」


 あ、いけない。

 あたしは我に返った。

 声のする方向を見上げると、いつもの怖い顔で上司がそばに突っ立っている。


「また手がお留守でしたよ、早瀬さん。

 最近ミス多いですし、何か別のことを考えながら作業していません?」


 すみません、と小声で言うと、上司はさっさと自席に戻っていった。

 あたしはいつもの入力作業を始める。

 オフィスでは、あたしと同じような顔と同じような年齢と同じような境遇の人間たちが同じような無表情でパソコンに向かい、同じようにキーボードを打っている。


 キーを叩く音以外、室内には何の音声も流れていない。

 勿論、作業用BGMもラジオもありはしない。


 でも、あたしがパソコンに向かうと。

 自然とあの、『さお君』の声が聞こえて来た。





『そうそう朝っていえば、朝のラジオあるよね。テレビが鬱陶しいから最近朝のラジオ聞いてるんだけどさ……

 ねぇ。みんなに聞きたいんだけど、朝のラジオって何で全部が全部、あんなにハイテンションなんだろうね? どの局もどの局もアナウンサーやタレントが揃いも揃ってでっかい声でハツラツと、『おっはよーごっざいまーす!!』って、正直ムカつかねぇ? こちとらこれから出勤で、消え入りたいくらい超絶鬱なんですけど。お前らのその熱い絶叫だけでこっちの心は焼け焦げて吹き飛ばされるってことを分かってほしい。

 この前なんか朝の6時から『起きて起きてぇーーっ!!!』て怒鳴られて、思わずラジオぶん投げちゃったんだけどw

 たまにはさー、超ローテンションの朝ラジオがあったってバチ当たらないと思わん? 

『お……はよ……ござ……ます……』ってどんよ~りとした絶望口調で始まるの。

 テーマソングは『今日も~会社~に行~きた~くな~い♪』ってどう?』



 さお君はペンギン型の謎の生物で、ネットで小説書いているヨーチューバー……

 という設定の、あたしの頭の中の生き物。

 いつの頃からかあたしの頭に住み着き、こうやって仕事中に勝手にwebラジオという形で雑談を始める。

 そのおかげで、あたしもネタには困らない――


 そう。さお君が書いたっていう小説は、全部あたしが書いたもの。

 当然、賞に落ちまくっているとか評価が全然つかないというさお君の話も、あたしの作品のもの。

 それでもあたしはさお君ラジオの中からネタを拾っては、作品にしている。

 今日の夢の話と朝ラジオの話は、結構いいネタになるかも知れないな。



『朝ラジオって言えばさ、オレ、あれが嫌だな。必ず決まった時間に決まったコーナーやるヤツ。

 例えば、某番組でお役立ち家電コーナーってあるじゃん? 結構世間で人気みたいだけど、オレの出勤時刻と毎回ちょうど被るんだよね。だからテーマ曲ごと嫌いなの、あのコーナー。

 え、あのテーマ曲好き? そーなの? ごめんね、オレ大っ嫌い。

 だってあの曲聞いた瞬間に『あぁ、出勤しなきゃ!!』ってなるんだぜ? 全身にじんましん出るレベル。コーナーの時間決まってなけりゃ、ここまで嫌いにならなかったんだけどなー。

 え、朝の番組はアラームがわりに聞く人も多いからコーナーの時間は変えづらい? いや、分かるんだけどねー』



 相変わらず、あたしの頭の中で喋り続けるさお君。読んでるコメントがどこから出たかなんて気にしない。

 最近、気づかないうちに一人称が「あたし」じゃなく「オレ」になることもあるけど、気にしない。

 指の間に何故かヒレみたいなものが出来てきて、指自体も短くなって入力ミスも増えた気がするけど、気にしない。

 身体の毛がやたら黒く濃くなり、おまけにお腹のあたりから白い体毛がうじゃうじゃ生えてきている気もするけど気にしない。

 オレはキニシナイんだ。あ~あ、きょ~うも~あ~した~も会社に行~きたくな~い♪



 Fin

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