第16話 大団円
闇のなかから、夕風先生が立ち現れて、おいらに尋ねた。
「鶯丸、なぜ助けたね?」
「なに、姫さんが、お手やわらかにって言ってたろ?」
「ふむ、それはそうだが……」
「それにおいら、みんなでよってたかって一人をイジめてるのをみると、むしょうに腹が立って、黙ってらんない
「そうか……」
夕風先生はあきらめたように微笑して、それ以上、おいらにはなにも言わなかった。
偽の姫さんや、
「
先生が言うと、偽の姫さん……
「なに、こっちも、おもしろい即興芝居だったよ!」
と、先ほどまでとはまるで違う、
よく見たら、顔は花月夜姫と違って、唇が大きめで、目もすこし吊り目だけど……でもこの人も相当の美人だ。
牛頭馬頭も、はや、頭からかぶりものをはずし、大らかに笑っている。
人のよさそうな、愛嬌のある、大男たちだった。
カラス天狗たちも、かぶりものを脱いでる。
「これは少ないが、
と、夕風先生はひとりひとりに、袋づつみを渡した。
纒頭ってのは、報酬のこと。
受け取った
「
うっひゃー、大胆!
首に絡みついてくる女の腕を、丁寧にほどきながら、夕風先生は答える。
「私には心に決めた人がいてね。……それに、君たちのすばらしい演技を見て、淫欲は慎まねばならぬ、と自分に言い聞かせたばかりさ。牛頭と馬頭に、衆合地獄に連れてゆかれてはたまらぬたまらぬ。遠慮しておくよ」
「ハッ、うまくいい逃れたね。地獄を怖がるタマでもあるまいに」
女は離れると、火がついたかのようにアハハッと笑い声をあげた。
「またおもしろい仕事があったら、呼んでおくれよ」
「ああ、頼む」
仲間どうしで談笑をつづけながら、
「あの人たちは、傀儡子……?」
と、おいらは、夕風先生に尋ねた。
「そう。芸能を
「火の玉も飛んでましたけど……」
「かれらの小道具さ」
「へぇ……」
「これで懲りるといいのだが」
夕風先生は睫毛の長い、美しい眼差しをむけて、延活先生が逃げていった裏口のほうを見つめてた。
◆
その後、花月夜姫の病は、みるみるうちに回復したよ。
夕風先生に、恋してるからじゃないかな。
恋は病にもなるけど、薬にもなるんだって、おいらは思った。
夕風先生も、父殿から信頼されてるみたいだし、姫さんがもう少し元気になったら、一緒に暮らすらしい。
「ふたりはなぜ、男と女が入れ替わったんですか?」って夕風先生に尋ねたら、
「恋人どうしの魂は、時に性別を入れ替えることによって、お互いの立場を知り、相手への思いやりを学び合いながら、更なる高みをめざしていくのさ」
……だって。
うらやましいこって!
……延活先生?
先生はあれからなにごともなかったように、真面目に働いてるよ。
おいらの「風心地」の歌は、回収させてもらったけどね。
にしても、あんな変質的な先生に同情しちまうなんて、まったく! おいらの心も困ったもんだ。
でもまじめな話をするとさ、あんな先生でも、いなくなると困る人たちがいたりもする。
常連のじいさまとか、知り合いの婆ァさまとか……。
おいら自身は延活先生の仕事を辞めちまったから、また新しい仕事を探さなきゃ。
夕風先生にもお願いしてみたんだけど、「助手は必要としてない。人手がいる時は、連絡しよう」だってさ。
陰陽師って、面白そうな仕事だったのになぁ……。
ま、でも、世の中には、いろんな仕事があるからね。
おもしろそうな仕事、探してみっかな。
おいらもちょっとは、まじめになったほうがいいのかな?
……そんなこと考え考え歩いてたら、またいつもみたく、婆ァさまからお呼びがあった。
「鶯や。稲瀬川の六さんのところへ、使いに行ってくれ」
「はい」
「はいは一度……え!? お前、どうした? 熱でもあるんか?」
たまにまじめに答えたら、目をまん丸にして心配される始末。
まじめは似合わねぇ。やめだやめだ。
「はいはい。まかしとき!」
由比ガ浜の黒い砂浜を歩いてると、尻尾を激しくふりながら、犬っころが駆け寄ってきた。
「あ、お前、こないだ助けた犬っころじゃねえか!」
しゃがみこんで迎えると、犬は飛びついてきて、ぺろぺろとおいらの
「あはは、元気に暮らしてたんだな」
犬っころの眼が、輝いてる。
鎌倉の波も、輝いてる。
昼顔の花があちこちに咲いて、風にふるえながら、やっぱり輝いてる。
「
犬っころは楽しそうに駆け回って、わん! と
あはは、おいらも同じ気持ちさ!
「今日は婆ァさまが、夕飯をご馳走してくれるってさ。お前も一緒に来な!」
おいらは犬っころと一緒に、波の光のまぶしくきらめく砂浜を、どこまでも駆けてった。
(『ウグイスは、花の言葉を語るらん』・おわり)
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『ウグイスは、花の言葉を語るらん』のタイトルは、西行法師の、
「白河の 春の梢の うぐひすは 花の言葉を 聞くここちする」
という和歌から、いただきました。
とても素直に詠まれた、誰の心にも響くような春の和歌。
西行法師が大好きな、花純であります。
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最後までお読みくださいまして、ありがとうございました!
とりあえず「完結済」にしておきますが、また第二章を思いついたら、書かせてもらいますね。
レビュー評価を、ぜひよろしくお願いします!
すでにレビュー・コメントとお星さまをくださったみなさま……とてもうれしかったです! 執筆の励みになりました。大大大大感謝です、ありがとうございました!!!!
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エンディング・テーマ?
ほんの遊び心に、花純が演奏する、余興の楽器演奏です。
よかったら、お楽しみくださいww
『君が代』(近況ノート)
ウグイスは、花のことばを語るらん KAJUN @dkjn
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