ボクは今日もオモチャにされる

烏目 ヒツキ

ヤバい子、大集合

確定の瞬間

 ボクの前には、同じクラスの男子がいた。

 茶髪に染めた頭は、ツンツンとしていて、身長が高い。

 背の低いボクから見れば、少しだけ見上げる形。


「まだかよぉ」


 ボクは後ろに立ち、両方の手の平を彼に向けている。

 彼の前には、階段がある。


「やめなさいよ」


 どんっ。


「あ……」


 勢い余って、ボクは彼の背中を突き飛ばしてしまった。

 手の平に伝わる筋肉質な背中の感触。

 ことで、手と頭を使う形で、ボクは前に転んだ。


「う、あ!」


 短い悲鳴が階段に響く。

 ボクは階段のすぐ目の前で四つん這いになった。が、前にいた男子は違う。


 頭から落ちて、肩とこめかみを打ち、ものすごい勢いで転がり落ちていく。踊り場の壁には背中を叩きつけ、眠ったように脱力していた。


「はっ、はっ、……そんな」


 ボクは押すつもりなんてなかった。

 拒むつもりだった。


 恐る恐る、後ろを振り返る。

 ボクの後ろには、スマホのレンズを向けている女子がいた。


「何やってるのよ。あなた」

「ち、ちが……」

「先生呼んでくるわ」


 感情のない声色で言うと、廊下に向かって進み、スマホを下げた。

 本当に先生へ報告しに行ったわけではなかった。

 途中で引き返し、彼女は戻ってくる。


「……あーあ」


 冷たい眼差しがボクを見ていた。


「どうするの? クスっ」


 ゆっくりと口角が上がり、彼女はわらう。

 ボクは怖くて、動けなかった。

 震えが止まらず、階段の下を見る。


 踊り場では、男子が頭から血を流していた。

 どうすればいいのか、分からなかった。

 頭が真っ白になり、再び彼女の方を見ると、何やらを見ていた。


「とりあえず、先生呼んできたら?」

「だ、どの、先生……っ⁉」

「誰でもいいでしょうに。あ、そうだ」


 彼女――氷室ひむろルカは言った。


「ワタシに……逆らわないでね……」


 ゾッとする笑みを浮かべて、氷室さんは上の階に移動した。

 ボクは全身が冷たくなって、途中まで廊下を四つん這いで移動する。

 自分でもビックリするほど、立つ力が戻らなかった。


「ヤバい」


 震えながら立ち上がり、廊下を歩く。


「ヤバいよ。……ヤバい!」


 ボクは廊下を走った。

 誰でもいいから、先生に報告しないといけない。

 反対側の階段を下りた頃、遠くから女子の悲鳴が聞こえた。

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