乗客乗員
星雷はやと
乗客乗員
「あ、止んだ」
僕はバスの中から空を見上げると、先程までの土砂降りが噓のように止んでいた。空は相変わらずの曇天ではあるが、雨が止んだことは喜ばしい。
テスト期間中の下校の為、冷房が効いた車内には僕と運転手だけである。天候の確認を済ませると、再び教科書に視線を戻した。
『次は〇〇〇。○○○。降車されるお客様は、降車ボタンを押してください』
『ピンポーン』
バスが走る音だけが響く車内に、次の停留所を告げるアナウンスが流れた。女性の声で録音されたテープの声が、淡々と鼓膜を揺らす。そのアナウンスに呼応するように、降車ボタンが鳴った。
「……あれ?」
不意に疑問を感じ、教科書から顔を上げた。確かこのバスに乗っているのは、僕と運転手だけである。では誰が降車ボタンを押したのだろう。周囲を見回すが、やはりバスには僕と運転手だけだ。
「故障かな?」
僕の疑問を他所にバスは徐々に速度を緩めると、人気のない田んぼ道の停留所に停車した。そしてブザーが鳴ると、後ろの降車ドアが開いた。ドアは僕の席の横だ。自然とそちらに視線が移る。
「……あ……」
降りる人物は見えないが、田んぼ道に出来た水溜りに水飛沫が上がった。緩慢なリズムで水面に小さな水飛沫が上がり、それは真っ直ぐに田んぼ道を進んでいく。
『ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております』
無機質なアナウンスが流れ、ブザーが鳴るとドアが閉まった。
乗客乗員 星雷はやと @hosirai-hayato
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