第111話
約二年後、リディはリンバルム学園を卒業した。卒業して一ヶ月後には、皇子レオポルドとリディ・ラヴァルディは結婚した。
過去の歴史で、皇子とラヴァルディの血筋が結婚することはあれど、相手がラヴァルディの後継者というのは、初めてであった。
◆
そして、さらに五年後――。
「「おじいしゃまー!」」
二歳の男女双子のリディの子供たちが、帝都のラヴァルディ邸で馬車から降りたとたん、パパに向かって走って行った。リディはレオにエスコートされて馬車を降りる。
第一子が長男リシャールで、第二子が長女ミュリエルだ。リディに似たのかパパが大好きで、二人ともパパの左右の腕に抱っこされて、ご満悦だ。二人とも銀髪に青い瞳でレオに似ていると思うが、レオは顔はリディ似だと言っていた。まだ小さいから、どちらにも似ているのかもしれない。ぷりぷりほっぺが可愛いのだ。
そして、ギリギリまだ三十代のパパが、まったく祖父には見えない。『おじい様』という言葉が違和感しかない。パパがいつまでも格好いい。
「ねぇね、おじいしゃま。リシャとミュリーは、どっちがい?」
「どっちがい?」
「何がだ?」
リディがパパに近づきながら、笑って口を開いた。
「昨日二人とも喧嘩してたの。パパは二人のどっちと結婚するかって」
まだ二歳なので、血縁だとか、性別だとか、年齢だとか、いろんなものを度外視で純粋にパパとの結婚を夢見ている。
「比べられないな。両方では駄目か?」
「だめよーおじいしゃま! ひとりしか、め!(駄目)」
「だめよーおじいしゃま! じゅうこん、め!(駄目)」
「誰だ、重婚なんて言葉を教えたのは……」
「えへへ」
「犯人はリディか」
「だあって、リシャとミュリーがパパと結婚できるなら、私とパパが結婚するのが先よって教えておかないと」
「リディは俺と結婚してるでしょ……」
「って、レオがこう言うから、パパと結婚したら私は重婚になっちゃうねーって言ってたら、二人が言葉を覚えちゃって」
そのようにして玄関で笑いあいながら、屋敷へ入っていく。
リディはラヴァルディの後継者として、今でもラヴァルディ領と帝都を行き来している。
実はリディだけ特例で、皇宮の中のある場所でのみ、地下世界との行き来をしてよいと皇帝に許可をもらっていた。そのため、皇宮から地下世界、地下世界からラヴァルディ領へと、数分程度で行き来できるため、ラヴァルディの後継者と皇子妃を両立できている。
ラヴァルディ領で仕事が忙しくても、皇宮には夜遅くても戻るようにしている。リディが帰らないと、レオが寝ないで待っているのだ。
また、ベルリエ前公爵から命を狙われたのを最後に、リディが命を再び狙われることもない。皇宮でも魔法が使えるため、今のリディが例え襲われても、自分の魔法で対応できるだろう。
子供にも恵まれて、夫にもパパにも愛されて、リディは幸せだ。
今回は十三歳になれればいいな。そう思っていたけれど、パパのお陰でリディは大人になれて、たくさんの幸せを貰うことができた。本当にパパには感謝してもしきれない。
「ママー、いちごとモモとりんご、どれにすりゅー?」
「全部かなー」
「リディはまた全部食べるのか」
「どうせ、お代わりするもの。全部もらっとく~」
三種類のタルトがたくさん並んでいる。うまうま、と甘いものとお茶をみんなで美味しくいただく。こういうのんびりとした時間も至福の時だ。
笑いあいながら、楽しいひと時は過ぎていく――。
◆
さらに時は大きく流れ……。
皇宮の世界樹がある広い部屋。
世界樹の傍まで歩く途中のリディは、大小の二つの世界樹が並ぶ、その前のベンチに座っている人に気づいた。
リディがパパと出会ってから数十年。去年、待ちに待った世界樹の代替わりが行われた。リディの中で成長を続けた新芽は、今は外の世界に出て、旧世界樹の隣に腰を下ろしている。新しい世界樹は、去年より大きくなっていた。今後数年かけて、旧世界樹の元の大きさ程度には大きく成長するだろう。そして、旧世界樹は逆に小さくなっている。
これまで世界を見守っていた旧世界樹は、代替わりしたら枯れるのかと思っていたので、まさか小さくなるとは思わなかった。少しずつ小さくなる世界樹は、あと一年程度で最終的には消えると思われる。
「パパ」
世界樹の前のベンチには、パパが座っていた。
「来たのか」
「ん」
リディはベンチのパパの隣に座ると、パパの手を握った。
昔はベンチなんてなかったけれど、レオと結婚後、世界樹が好きなリディが頻繁に世界樹の前に長居するので、レオが設置してくれたのだ。
パパの横でリディも世界樹を眺める。旧世界樹も新しい世界樹も、淡く白く発光していて綺麗だった。
リディには現在皇帝であるレオとの間に三人の子がいる。上の双子の長男と長女、そして次男である。長男は皇太子で、長女はすでに降嫁した。次男はラヴァルディの後継者として、すでにラヴァルディ領でバリバリ仕事をしている。次男は黒髪でラヴァルディの血を濃く継いでいるようなのだ。雰囲気はリディよりパパに似ている。
次男が生まれる前までは、長女がラヴァルディの後継者かなと漠然と思っていたけれど、長女はリディに似ているのか魔獣を見ると泣きべそだった。長女本人もラヴァルディの後継者は無理と言っていたので止めたのだ。
ちなみに、長女はベルリエ公爵家の後継者の妻である。つまり、リュカの息子の妻。友達の子供同士が結婚するなんて思ってもみなかったけど、長女とその夫は小さい頃から互いに結婚すると言って仲が良くて、長女に求婚されたことのあるパパやレオなんかは、長女が小さい頃から複雑そうな顔をしていた。
これまでいろんなことがあったけれど、リディは幸せだ。
「ねぇ、パパ」
「なんだ」
「世界樹の代替わりも終わって、もう二度と回帰は起きない。少なくとも約千年後までは」
「そうだな」
次の代替わりが始まれば、また新芽が生まれるだろう。でも、その時はリディは生きていない。
「もう私の役目も終わった。ほっとしているし、もう二度と回帰なんてしたくない」
リディはパパを見た。
「リディとしての人生はこれで最後。次に転生して来世があったとしても、それはリディではない。でも……リディじゃないとしても、来世も私はパパの子になりたい」
パパはリディを見て、口を開いた。
「あたりまえだろ。リディは来世でも俺の娘になるんだ」
リディは嬉しくて笑みを浮かべた。
愛するパパとの約束。来世もパパの愛娘になりたいです。
おわり
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「公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです」はここで完結となります。
お読みいただき、ありがとうございました。
公爵家の養女ですが、来世もパパの愛娘になりたいです 猪本夜 @inomotoYoru
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