第110話
パパから結婚についての承諾がもらえて、リディとレオは晴れて婚約した。大々的に帝国民にも発表され、リディが学園に通学すると、拍手で迎えられて嬉しかったけど少し照れてしまった。
ところで、リディとレオが恋人だと、友達はなんとなくみんな知っていたらしい。ただ、皇族とラヴァルディ公爵家の付き合いに言及するのはどうかという遠慮があって、今まで知らぬ振りをしていたという。
リディも特に隠していたわけではないが、学園内ではレオとは学年が違うし、時々同じ講義があるだけだったので、気づかないかもと思っていたのが間違いだったらしい。そんなにバレバレだったのか。
ただ、レオが卒業しても頻繁にリディを迎えに来るのは、少し有名になりつつある。
今日も、レオは皇子としての仕事を抜け出して、リディを迎えにやってきた。レオが迎えに来る日は、ラヴァルディ公爵家の馬車は使わないことにした。前は二台連なって帰っていたが、中に誰もいない空の馬車を動かすのは、道の渋滞の要因になるから止めたのだ。
リディの迎えのため、学園に到着した馬車からレオが降りた。
「リディ、お疲れ様」
「レオ」
レオはリディの手をすくい、手の甲にキスを落とす。たぶん、それを見たのであろう、校舎の方から、きゃあきゃあと黄色い声が飛んでいる。なぜか、最近このパフォーマンスがレオのお気に入りのようなのだ。なんでだろう。前なら、馬車に乗ってから頬にキスしてくれる感じだったのに。
レオのエスコートで馬車に乗り、馬車が動き出すとレオはいつも通り頬にキスをくれる。
「そういえば、最近、馬車の外で手の甲にキスをするのって、なぁに?」
「ん? そりゃあ、リディは俺のだから見せておかないとって」
「見せる? 誰に?」
「学園の子にだよ」
「……? レオが私の婚約者って、みんな知ってるよ?」
「知っていても、リディは可愛いし性格も良いから、みんなリディを好きなると思うんだ。俺は卒業しちゃったし、少しでも顔を出して牽制しておかないと。リディは俺のだから」
「……」
うーん、リディはレオ以外の男性に惚れられたこともなければ、好きになられたこともない。レオの考えすぎだと思うけど、レオの独占欲と思われる気持ちは嬉しいので、このままにしておこう。
「あ、そういえば。実はレオに言おうと思っていたことがあったんだ」
「何?」
「紹介します。私の光の精霊のララです」
「……ん?」
――リンッ
『初めまして! ララです!』
「……え?」
レオは驚きながら顔をララに向けた。光の精霊ララとは初対面なのだ。
「昨日ララと相談してね。レオとは婚約したし、そろそろ話してもいいよねーって」
「光の精霊?」
「うん。私の治癒の力の源です」
『ずーっと、リディの中から見てたから、初めてのような気はしないわね!』
「……ずっと?」
『小さい頃から見てたわよ! リディがあなたの傷を治癒してあげたところからね』
「あ、……あの時」
『あ、でも、あなたたちが二人でいちゃいちゃしている時は、見ないようにしているわ! 私、プライバシーは守る精霊なの! えっへん!』
レオが若干赤くなり、片手で口元を隠した。
「ちょ、ちょっと待って……」
「そうだよね、レオ。別に見られてもいいよねー」
「いやいや、俺は見られたくない……」
「でも、ララだし」
リディはずっとララに見守られてきたため、ララに見られるのはいつものことなのだけれど。
「うん、その『でも』は俺には分からないけど。――ララさん、今まで通り見ない方向でお願いします……」
『任せてー! どちらにしても、私はいちゃいちゃには興味がないんだ。リディが悲しんだり泣いたりしてないかが気になるだけ。言っておきますけど、リディを泣かせたら承知しませんからね! 光で目つぶししてやるんだから!』
「はい……。絶対に泣かせません」
まだ若干赤いレオだけど、少し落ち着いたのか、コホンと咳払いした。
「そういえば、リディは光の魔法も使えるんだったね」
「癒しの魔法だけね。あと、聖水も作れるけど」
「え、そうなの?」
「うん。でも、ララの方がすごいんだよ。髪の毛の色を変えられるんだー」
『えっへん! 任せなさい!』
ララはリディの髪色を、黒色から金色のような蜂蜜色に変更した。
「どうかな?」
「……可愛いよ! いつもの黒色も好きだけど、これも似合ってる!」
「ありがと! あのね、今度レオの髪色も変えて、街をお忍びデートする?」
「する!」
レオは「可愛い。すっごく可愛い」とテンションが上がっていて、後日、ララに二人とも髪色を変えてもらい、街中を堂々とデートを楽しんだ。
そして、時は流れていく――。
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