第10話少年は王女に喧嘩を売られる

 リオがアッシュの元で過ごすようになってから一週間程経った頃、リオは突然現れた少女に困惑していた。

 生活にも慣れ、勉強もそれなりに進み。メイドと共に料理や裁縫などをしたりして、充実した生活を送っていた。

 その日も、朝はアッシュと軽く運動し、午前は勉強をしていた。

 そして、昼も近くなり、メイドと一緒に昼食を作っていた時の事だ。


「メイドさん。今日は何を作るですか?」

 

 リオはエプロンを身に着け、隣で料理の準備をしているメイドに聞く。

 また、このメイドの名前がメイドと言う事を聞いてからはさん付けで呼ぶようにしている。

 最近は若干精神が身体に引っ張られてる気もするが、気にすることなく過ごしている。

 

「本日はシンプルに野菜炒めとコンソメスープを作る予定でございます。シンプルだからこそ腕が試される料理です」

 

 リオは返事をしてから、メイドの指示に従い料理を始める。

 野菜を切り始めた時に、リオは調理場のドアの外に気配を感じ、その事をメイドに伝える。

 メイドは首を傾げてからドアに向かい、そっと開けた。

 そこには銀髪の少女とコローナが居り、銀髪の少女を見たメイドしばし固まってしまった。

 コローナはそっと人差し指を口元に添え、メイドに口外しない様に促す。

 銀髪の少女の顔を険しく、怒気を抑えながらリオに近づく。


「こんな時間にどうしたんですか? それと、そちらの少女は?」

 

 リオはコローナがこんな時間に来るなんて珍しいと思いながら聞くき、それと共にやけに自分を睨んでくる少女の事を聞いた。


「貴様がリオで間違いないか?」

 

 少女はコローナが口を開くより早く、リオを問いただした。

 

「そうですけど・・・・・・」

「何故、料理などとしている? 貴様はあのアッシュ団長の義理とは言え、息子なのだろう?」

「名目上そうなっているみたいですが、俺としては料理したり物を作ったりしてる方が楽しいんですよね」


 フィロソフィアに会ってから、日を追う毎にリオの中の闘争心は消えていき。今が楽しくて戦いなんて馬鹿馬鹿しいと思うようになっていた。

 

「成程。そうか、そうか」

 

 少女の怒気はいよいよ殺気とも呼べる程膨れ上がり、何を怒っているのか分からないリオはコローナに視線を向け、助けを求める。

 だが、コローナはスッと、視線を逸らす。

 

「リオよ。この場で私に殺されるのと、戦って殺されるのはどちらが良い?」

「よく分かりませんが、すみませんでした」

 

 突然の殺害宣言にリオは困惑しながらも、とりあえず謝ってご機嫌を伺おうとする。

 少女はそれに応える事無く、腰の剣を抜き、リオに向ける。

 だが、こんな所で暴れられると困るメイドは言葉巧みに少女を丸め込み。庭にリオと共に追い出した。

 リオはコローナから刃抜きされた剣を渡され、有無を言わさず少女の前に押し出される。


「貴様の様な奴がアッシュ団長の下に居るなどど……」

「あのー、あなたは一体誰なんでしょうか?」

 

 リオは持ち前の下っ端根性を発揮し、ゴマをする様に聞くが、少女は方眉を上げ貶す様に見る。

 

「私はキャロル・アレムント・ヴァルベルグ。王女であり、アッシュ団長を師と仰ぐ者だ!」

 

 リオは嘘だろうと叫ぼうとするが、斬りかかってくるキャロルによって口を開く事が出来なかった。


 リオは頭を回転させ、どうするか考える。

 コローナが居たので、それなりの地位の者だとは思ったが、まさか王女だとは……。

 これまで常に全力での戦いを強いられてきたリオに、手加減何て器用なことは出来ず、避けるばかりで攻撃が出来なかった。

 

 下手に攻撃して大怪我を負わせばアッシュに迷惑が掛かるからだ。

 

「貴様! 避けてばかりで、攻める気はあるのか!」

 

 リオのやる気のなさにキャロルは叫ぶとともに、自分の剣がまともに当たらない事にイラつく。

 これでも下手な騎士には負けない程の力がある。

 なのに、リオは剣を防ぐどころか、全てを躱すばかりでまともに戦おうとしない。

 

 ならばと、バックステップで一度距離をとり、火の魔法をリオに放つ。

 それを見ていたコローナは、流石に大丈夫なのか心配になる。

 接近戦なら大丈夫だろうと気を抜いて見ていたが、魔法を使えないリオが、あれだけの威力の魔法を撃たれるのを見れば、流石に心配になる。

 コローナは目を細めて戦いの行方を見守った。


 リオは迫ってくる魔法を見て、懐かしい気持ちになる。

 それと同時に頭の中でスイッチが入りそうになるが、それを寸での所で押しとどめる。

 リオは黒い剣を左手に出現させ、魔法に突っ込んだ。


 キャロルは流石に魔力を込め過ぎたかと舌打ちをするが、直ぐに追い打ちが出来る様に剣を構える。

 そして、リオが魔法を斬り裂きながら突っ込んで来た事に驚き、一瞬固まってしまったが、直ぐにリオに斬り掛かる。

 だが、リオは持っていた剣を両方とも手放し。キャロルの剣を白羽取りする。

 

「王女様一旦落ち着きましょう。話せば分かります!」

「多少はやるようだな。だが、まだ終わりではない!」

 

 キャロルは身体強化を施しているはずなのに、全く動かない剣に見切りをつけ、剣から手を放してリオに殴りかかる。


 右ストレートからの反動を利用した回し蹴り、その連撃は剣よりもキレがあり、リオは驚いた。

 だが、そのキャロルの攻撃により手加減して戦う方法を閃いた。

 

 リオはキャロルの右ストレートに合わせて、一歩踏み込む。

 驚くキャロルだが、直ぐに右腕を引いて距離を取ろうとするが、腕はリオが両腕で握っており、距離を取ることができない。


 リオはキャロルの右腕を握り、おんぶをする様にキャロルの腹部に腰を当てると、そのまま背負い投げた。

 キャロルは急に視界が変わると共に、背中に走る激痛により、一瞬動けなくなる。

 そして、目の前に広がる空を見て、自分が転がされた事に気が付いた。

 

「何をした?」

「背負い投げと呼ばれるものです」

「そうか」

 

 負けたか。そう思いながらキャロルは目を閉じる。

 同世代に負けるのはこれで二回目であり、一回目に比べれば、まだまともな負け方だった。

 悔しいと言えば悔しいが、それよりもリオに腹が立つ。

 目を開けると、リオの手が差し伸べられており、それを掴んで立ち上がる。

 

「何故貴様は戦う気がないのだ? それだけ動けるなら騎士でもハンターでもやっていけるだろう?」


 リオは頭をかきながら口を開く。

 

「戦わなければならない程の理由も有りませんし、平和ならそれで良いじゃないですか」

 

 キャロルはため息を吐き、リオの腹を殴る。

 

「今日は帰る。また来るが、その時は手合わせを頼む」

 

 リオは殴られた腹を抑え、また来る気なのかと内心思うが、口には出さない様にする。

 コローナの方を見れば、諦めなさいと言わんばかりに首を振り、去って行くキャロルに付いていった。

 リオは立ち上がり、瞬く間に過ぎ去った嵐のような出来事にやれやれと首を振り、屋敷の方に歩いて行く。


 キャロルは王城へと向かう馬車の中でムスっとした顔でコローナを見る。

 

「気に食わないが、コローナが言ってたよりもリオは強かったな」

「私も少々予想外でしたが、元が噂程度ですから」


 コローナは誤魔化すが、先ほどの戦闘を見てからリオの評価を変えていた。

 フィロソフィアには魔法が使えなければ恐ろしくないと言ったが、あれは少し可笑しい。

 魔法で身体能力を高めているキャロルに対して、生身で対等以上に渡り合い。挙句、魔法を物ともせず斬り裂いた。

 リオが特殊なのか、あの黒い剣が特殊なのか。どちらにせよ、まともに戦うのは避けようとコローナは思った。


「それにしても、私の剣が掠りもしないとは……おまけに拳も殆ど手応えがなかった。あながち黒い扉の伝承も眉唾ではないのかもしれんな」

「伝承ですか?」

「ああ。王家に伝わる話だから言えないが、それにしても気に食わん。後でフィロソフィアに文句を言ってやる」

 

 コローナはフィロソフィアの計画の一つがダメだったのを悟り、心の中でフィロソフィアにエールを送る。

 

「また行くと言っていましたが、それは本気ですか?」

「ああ。入学まで二カ月しかないが、その間に奴の根性を叩き直してやる。例の件もあるから、あまり目を離したくもないからな」


 休む時間が更に少なくなりそうだなと、コローナは内心でため息を吐き、どうしてこんな事になってしまたのだろうかと、過去の事に思いを馳せる。

 

 「そう言えば、リオが持っていたあの黒い剣については知っているか?」

 

 コローナが少し現実逃避をしてるとポツリとキャロルが呟く。

 

「詳しくは分かりませんが、恐らく契約によって手に入れたものと思われます」

「そうか……まあ、追々聞けば良いだろう」


 キャロルとコローナが話している内に馬車は王城に着き、キャロルはフィロソフィアが居るであろう場所に向かうのだった。

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神を殺した男は千年後の世界で平和を願う ココア @yutorato

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