第9話フィロソフィアの企み

 アッシュの屋敷へと戻って来たリオは、昼食にはまだ早いので、自室として与えられた部屋に戻り、最初にリオを案内したメイドと共に勉強を始める事にした。

 

「先ずは何について学びたいとか、ございますか?」

 

 リオは勉強をしたいと答えだが、アッシュの部屋にあった本のタイトルは問題なく読めたので、恐らく読み書きは問題ない。

 

 計算については恩人から貰った知識があるので問題ないし、魔法については使えないので勉強する必要は無い。


 勉強としては、地理と歴史位しか学ぶ必要がないかもとリオは考える。

 

「多分読み書き計算は問題ないので歴史と地理位ですかね?」

「その位でしたら、アッシュ様の部屋にあるので借りてきます」

 

 軽く頭を下げてメイドは部屋を出ていく。

 

「魔法については良いのかしら?」

「魔法は使えないんですよ」

 

 コローナは聞かない方が良かったかもと思うが、一応理由を聞く。

 

「契約の代償として一般的な魔法は全て使えないんです」


 コローナはなる程と頷く。契約の代償なら仕方ないし、感じられる魔力も微々足るものなのも、契約が理由なのだと理解ができる。


「それは悪いことを聞いたわ。他には何か勉強したいことや、やりたいことは?」

 

 他、他かーと悩むが、急に自由だと言われた身としては何も考えていない。

 

「そうですね、料理とか裁縫とかですかね?」

「はぁ?」


 コローナはそう言われて変な声を出してしまった。

 戦いに前向きではないのは分かっているが、料理や裁縫等の雑事をやりたい理由が分からない。

 

「それは職として学びたいのですか? それとも趣味として?」

「出来れば職として学びたいですね」

「そう……その事はメイドから軽く学んでから考えてちょうだい。私も時間が空けば来るけど、基本はメイドが教えてくれると思うわ」


 コローナはリオが勉強したいのならそれで良いだろうと、あまり深く聞かないことにする。

 何かあればフィロソフィアが何か言ってくるか、本人が手を打つだろうという事が分かっているからだ。


 それから少しすると、メイドがアッシュの部屋から数冊の本を持って帰ってきた。

 

「此方が世界の大まかな地図と、主要国家の資料になります。それと、飲み物になります」


 コローナは軽く目を通し、どの様にリオに教えるか考える。

 

「飲み物ありがとうございます。さて、先ずは主な国と、この国の歴史について説明するわね」

 

 そこからコローナは一時間程、リオに大まかなことを説明した。

 途中でリオが質問すると悩む素振りもせずに答えるので、流石副隊長と言ったところだろう。

 

 今の世界には、大陸ごとに大きな国が一つから二つ程と、小国が多数あり。基本は大陸ごとに経済が回っているので大きな争いがない。

 

 また、千年前の影響で汚染された場所が残っており、そこの浄化や開拓が終わるまでは大陸外に戦争を仕掛けるのは禁止されている。

 

 差別や奴隷等の問題はどの国も抱えており、リオが居るヴァルベルグ王国は良くも悪くも中立の国となっており、種族間の小競り合いが後をたたない。


 他の国もそれぞれ問題はあるが、ヴァルベルグ王国のある大陸は平和とは言えないが平穏であると、コローナは締め括る。

 

「こんな所ですかね。時間も良さそうですので、私はこれで帰ります。午後はそちらのメイドにお願いします」

 

 リオが時計を見ると、十二時を少し過ぎており、多少空腹を感じている事に気づく。

 今思えば、勉強など恩人に教えられた位しかなく、後は貰った知識を元にやりくりしてきたので、リオは誰かに教えられる事に新鮮味を感じていた。


 メイドが昼食を部屋まで運んで来たので、それを食べ終えるとコローナは若干ふらつきながら帰っていく。

 メイドと二人になったリオは若干居づらさを感じながら、勉強を再開するのであった。



1



 

 

 リオに会うことが出来たその日の夜、フィロソフィアは有頂天と言って良いほど、感情が昂っていた。

 呼び戻すのには多少苦労したが、重ね予定通りに進み、しっかりと手綱を握ることが出来た。

 

 だが、フィロソフィアとしてもまさか若返っているとは思わず、少し悩むことはあったが、若返っていて良かったとも考える。

 

 もしも、アランの執務室で会った時にリオが、本来の年齢だった場合。フィロソフィアはリオの剣を防ぐことが出来ずに、あの場で死んでいた可能性があるからだ。

 

 若返った原因は気になるが、それはどうでも良い。

 むしろ、若返ってくれたおかげで、これからの予定が決められたことを嬉しく思う位だ。

 

「コローナ。様子はどうでしたか?」

「特に何もと言ったところですね。あの少年は一体何なのですか?」

 

 誰も居ないはずのフィロソフィアの部屋の影からコローナが現れ、思っていた疑問をぶつける。

 

「リオは私を殺し、私を救い、世界を救った方ですわ」

「はぁ?」


 コローナは変な声を出しはするものの、フィロソフィアの言葉と自分が持っている情報を擦り合わせ、答えを出そうとする。

 

「つまり、過去に神を名乗る者を倒したのがリオと言うことですか?」

「そうよ。何故か若返っては居るものの、あの殺気や剣筋は間違いなく、彼の者でしたわ」

 

 ふむっと、コローナは顎に手をやり。アランの執務室での事を思い出す。

 確かに脅威的だが、魔法を使えないとなれば話が変わってくる。

 

 まともに戦えば負けないだろう。

 

 コローナは正直、この化け物をリオが殺したとは信じられない。

 

「その顔は信じてないわね。まあ、機会は後で作りますので、貴女の驚く顔を楽しみにしてるわ」

「何かするんですか?」

「ええ。王女を送り込むわ」

 

 コローナは絶句し、もし王女がリオの元に行った場合について考える。

 

「今のリオは目的を失って、腑抜けてしまっているでしょう?」

「武名で名高い団長の元に居るのに、戦う気は無いリオ……ですか」

 

 フィロソフィアの言葉に続くように答える。

 

「あの王女なら間違いなくキレてリオに勝負を挑むわ」

 

 確かにあの王女なら、リオを殺すつもりで挑むだろうとコローナは思う。

 だが、王女を使うと言うフィロソフィアの案は流石にどうかとも思う。


「学園都市にリオを連れてく事を考えると、王女とも縁が有った方が後々の計画に良いでしょうし、王女とリオがどう転んだとしても、私としては全然構いません。むしろ、王女がコテンパンンに負けてくれることを望みます」

「ああ、そういう事ですか」

 

 コローナは何故、フィロソフィアが王女を使おうとしているのかを正しく理解した。

 

 実は、フィロソフィアと王女は仲が悪く、事あることに王女がフィロソフィアに絡んでくるので、フィロソフィアは辟易としていた。

 

 なので、リオを王女に捧げる事により、自分が自由に使える時間を増やそうと言う魂胆なのだ。

 

「適当に噂を流して王女がリオの元に向かうように仕向けなさい」

 

 コローナは頷いて、影の中に消えていく。

 

「私もに負けない程度には、鍛えといた方が良いかしらね・・・・・・」

 

 フィロソフィアは窓から空を見上げ、リオに襲われた時の事を思う。

 

「さて、リオがどう成長するか楽しみましょう」


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