第8話少年は戦う気が無いようです
フィロソフィアに呼ばれて、アッシュはコローナと共にアランの執務室戻る。
そこには先程とは纏う雰囲気が違うリオが居た。
おや? っとアッシュは首を傾げるものの、殺気立ってるよりは良いだろうと気にしない事にした。
アランは二人とフィロソフィアが入ってくるのを確認してから口を開く。
「アッシュ、リオについては手紙の件通り任せる。他からのやっかみがあるかも知れんが、多少はこちらで対処しよう」
「此方としてはありがたいですが、このまま引き取って良いんですか?」
「一通り確認は終わったからな。儂としては害にならなければそれで良い」
「そうですか。何かありましたら、コローナを通して連絡します」
「アッシュさん、今度リオに会いに行っても宜しいでしょうか?」
アッシュはそう言われてチラリとリオを見るが、リオは特に反応をしていないのでフィロソフィアには「何時でも来てください」と、社交辞令で答える。
アランはこれで終わりだからもう帰れと言いたげに手を振り、フィロソフィア以外を執務室から出る様に促した。
嫌な顔をするコローナを無視してアランはリオを連れて執務室を出て、これからどうするかと考える。
一応書類仕事もあるが、昨日の事もあり、部下に顔を出しておきたい。
本音としては書類仕事はコローナに任せて、部下と訓練でもして汗を流したいが、昨日の負い目もあるので今日ぐらいは真面目に仕事をやるかと、小さくため息をつく。
「顔見せの為に訓練所に顔を出して、その後はリオを俺の屋敷に帰しといてくれ。それが終わったらゆっくり休んでくれ」
「そうですが。書類は纏めて置いてあるので、今日中に処理の方をお願いします」
アランは肩を下げながら頷き、三人で訓練所に向かった。
訓練所に着いたアラン達は、訓練してる団員達を集め昨日の事を労った後に、リオの事を説明する。
「知ってるものは知ってると思うが、この少年が昨日の件の者だ。名前はリオと言い、暫くは俺の所で預かり、ゆくゆくは俺の養子になるだろう」
団員達はガヤガヤと騒ぎながら驚くが、一番驚いたのはリオだった。
アッシュの元で世話になる事は、アランとの話し合いで分かっていたが、まさか養子にされるかもしれないとは思っていなかった。
後ろ楯が無い状態で生きるよりはあった方が良いし、アッシュは国の騎士団の団長なのでそれなりに力はあるだろう。
そこら辺は追々考えれば良いだろうとリオは一旦考えるのを止める。
ガヤガヤとうるさい団員達をアランが黙らし、アランに促されてリオは適当に自己紹介をする。
団員達の反応はまちまちだが、悪い反応をするものは居なかった。
「団長、それは良いですけど、教育とか大丈夫なんですか?」
団員の一人が煽るように言うが、アッシュは「メイドやコローナに任せる」とだけ言い、団員一同はコローナに同情する。
コローナはアッシュの尻をつねる事で抗議をするが、アッシュは当たり前のように無視をする。
コローナとしてはリオの教育に駆り出されるのは構わないが、何かある度に自分に仕事を投げてくるアランには腹が立った。
だか、フィロソフィアにくれぐれもリオを宜しくと頼まれているので、コローナはつねって抗議するだけに留める。
「何か質問ある奴は居るか? 居ないなら訓練に戻ってもうぞ」
「はい」
団員の一人が手を上げる。
「ヘンリーか。何だ?」
「教育もそうですが、戦闘面はどうするつもりですか?」
「あー」
アッシュはチラリとリオを見て、アランの執務室での出来事を思い出す。
自分ですら動けなくなる程の殺気に、ギリギリ目が追い付くどうかの攻防。
多少平和ボケしてたとしても、団長である俺があの時何も出来ずにいた。
今感じられるのは、この中で誰よりも小さな魔力だ。
言い方は悪いが、同世代の子供よりも弱そうに見える。
なのに、あの時はリオには勝てないと本能が叫んだ。
こいつに戦闘面での訓練は必要なのだろうか? とアッシュは思う。
そういえば、あの時リオは見たこともない剣を使ってたのと今更ながらアッシュは思い出した。
アッシュに見られてる事に気づいたリオはどうしたもんかと考える。
身体を作る位はするつもりだが、戦闘方面に対するやる気は殆ど無い。
それに、もしも凶悪な相手が出たとしてもフィロソフィアなら対処出来るだろう。
そう思うと、あまり乗り気にはならない。
とりあえず、適当に誤魔化してしまうことにする。
「戦うことは苦手なので勉強に身を入れたいです」
「……そう言う事みたいだ。残念ながらこいつが此処に来ることは少ないだろうが、なるべく仲良くしてやってくれ」
アッシュはこれ幸いと早口で話し、団員達を訓練に戻らせる。
しかし、この時のリオの答えが尾を引き、後々団員達の不満が爆発し、大変な事になるのをこの時のアッシュは知る由もなかった。
「さて、俺は行くから、後の事は頼んだぞ」
「団長ではないので心配しないで下さい。それと、馬車はこちらで使うので頑張ってください」
コローナはペコリと頭を下げ、リオの手を引いてそそくさと去っていた。
残されたアッシュは面倒とは思いながらも、騎士団本部に歩いて向かうのであった。
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