第4話 旅立ちの日
花井は卒業式の翌日に『旅立って』いった。自分にとって初めての、秘密の葬儀。
これも花井のたっての願いだったという。一人での旅立ちは、寂しくはないのだろうか。
たったひとりの学友、そして幼なじみ。見送るのが、自分のような地味な、取り立ててどうということもない存在で、本当によかったのだろうか。
高嶺の花の委員長にはもっと相応しい見送りもあったんじゃあないか。そんなことを思いながら、棺の傍らで静かに涙を流し、肩を寄せ合う花井の両親を見やる。そして、棺に詰める花を手に取った。
すっかり細くなった顔に、綺麗な化粧が施されている。花を手向け、胸の前で組まれた手に、そっと触れた。
初めて手を握った時も冷たかったが、もっと冷たい手が告げる。
高嶺の花はもう天国にしか咲かないのだ、と。
アンドロイド花井のお役も御免らしい。世間では花井は『海外留学』と言うことになっているらしい。
これからどうするのか、遠慮がちに先日の使用人に問いかけてみたら、花井の遺言で、同じ様な歳で、同じ様な事情で学校に通えない女の子の元に連れて行かれるらしい。
外見も作り直して、教育やその他の高性能プログラムもインストールし直すという。
それでも、アンドロイド花井は、あの日の青い空を覚えていてくれるのだろうか。
ふとそんな事を考える。
葬儀の帰りにふと立ち寄った、卒業式も終え、静かな校庭に桜の花が舞う青空を見上げて。
【完結】アンドロイド委員長は桜舞う校庭を走る夢を見るか? あきのな @akinona
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます