【完結】アンドロイド委員長は桜舞う校庭を走る夢を見るか?

あきのな

第1話 隣の家の委員長

 俺の家の隣には豪邸が建っている。うちのクラスの花井の家だ。


 花井は美人だ。成績も学年トップだ。イエスとノーをはっきりと言うテキパキとした性格で、委員長もまかされている。けれど、高校生なのに、何故かちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出している。何故だろうか。


 花井とは家も隣でクラスも同じであり、幼い頃はそれなりに一緒に遊んでいたような記憶がある。だがそれも小学校に入学するころまでだったろうか。いつの間にやら話す機会があまりなくなっていった。そんな間柄だ。


 そういえば中学の頃に、海外へ出掛けていった花井一家が、ものすごい大量の荷物を抱えて帰ってきたことがあったような気がする。お金持ちともなればお土産もあんなに要るものなのか、と首をちょっと傾げたのが妙に記憶に残っていた。


 そして高校3年の夏。帰宅部だった俺は家で庭の草むしりをしていた。すると、隣の家の塀に、人間がひとりやっと通れるほどの大きさの穴が空いているのを偶然発見してしまった。花井の家は豪邸だが由緒ある、つまり古い家だ。壁もいつの間にか劣化したのだろう。


 思わず穴の向こうを、草をかき分けて覗き見る。


 花井がいた。サンルームに置かれた藤のベッドに座っている。だが、花井は何と『二人』居た。

 だが、片方の花井は、頭や背中を、種々様々色とりどりの配線で、何やら巨大な黒い箱に繋がれている。

 もう片方の花井は、ベッドに腰掛けて動かない。顔も、自分の知っている花井とはずいぶん違って、痩せてやつれている。丸で別人のようだ。


〈数学3B・現代国語問題集インストール完了〉

〈クラスメート・学内教師の情報更新完了〉

〈休み時間清掃用プログラムを………〉


 そこで俺の足元の枝が、ぱきりと音を立てて折れる。


 プーップーッと警告音の様なアラームが鳴り、

〈周囲に異常を検知。休み時間清掃用プログラムインストール強制中止〉

 配線で繋がれていた方の花井の瞼が機械的に落ちた。

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