3-2

 あるいはこうも思う。

 自分は家族よりも大切なもの、というのが、根源的な部分で、ない、ということを。

 だから平和でいられるのかもしれない。家族よりも大切なものがないからこそ、家族を最優先に考えられるのかもしれない。特に夢がないからこそ現実の世界を現実的に生きていられるのかもしれない。

 それは、とても幸せなことだとは思う。

 でも、自分も情熱を注げる何かが欲しいとも、思う。音楽とか小説とか、そう言うものを夢見てみたいと夢見る。

 そういえば、と雅哉は思い返す。しばらく前に事故死したそうだが、一世のハロー・ファクトリーに絵描きの利用者が存在していたことがあったそうだ。確か名前は、海川航平。詳しくは知らないが、知的に障害があった人だそうで、そして天才的な絵画の才能を持っていて全国コンクールで賞を取った直後に死んでしまったらしい。

 その人は家族とうまくやれていたのだろうか、と、雅哉はふと思う。

 そして、自分も、その人と同じように、何かを達成するように何かを見つけることができるだろうか、そうも思う。

 今後、直亮やすずかけのYさんや木下栄吉が、日置航也の言うように「親を受け入れる」ということができるかどうか、基本無関係な雅哉にはわからない。でも、そうなったらいいと思う。自分は親とうまくやれている。だから親とうまくやれていない子どもたちの気持ちが本当のところではよくわかっていないと思う。でも、親の死を願うというとんでもない願望を聞いてしまっては、彼らの辛さを追体験できないでいるわけではない。それが雅哉の知能指数が高いということであり、あるいはEQを鍛えた結果なのかもしれなかった。

 彼らが親とうまくやれることは——もしかしたらないのかもしれない。

 それでも、幸せになってほしい、と、思う。

 そして、何よりも自分自身のことだ。

 まずは高校に行くことだ。そこで、どんな仲間たちと出会うのか——今はそれを楽しみにしていよう、と、雅哉は来年の春を夢見るのだった。


〈了〉

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