シンギュラリティの孤児たち

永遠の命はシンギュラリティ後、実現可能とも噂されています。
でもそのくらい文明が進んでしまうと、人類はAIに淘汰されてしまうとも言われています。

永遠の命へ最短コースは、AIと人を置き換えることかも知れません。
小説によってシンギュラリティの結末って変わると思うんですがアイカノは……?
わくわくして読みました。


「スマートアイズ」
楽しそう! スマホが順当に進化したら、コンタクトレンズ型になって記憶全部データ化できるだろうな~って思いました。でもこんなん流行ったらプライベートとかなくなっちゃうね。ディープレッド社に全部データ送信されてるのかも知れないし。
生々しいと思うのは、スマホ→スマートグラス→スマートアイズと、シンギュラリティ以前の技術からグラデーションに進歩した形跡が想像できることです。スマートグラスまではたぶん人間が発明してたわけです。どこからAIにすり替わっちゃったんだろうな~って。

一方、感情を持つAIは今の技術では作れなさそうなので、シンギュラリティ後に生まれたSFテクノロジーだと思います。
一部が現代と地続きでも、途方もなく進んだ技術が混じってもうある。
シンギュラリティは右肩上がりではなく「垂直で文明が進歩する」らしいですからね。
遠くありながら近くにもうある未来特有の空気感が出ててカッコよかったです。


「家族愛」
命って、何をもって命なんでしょうね。
記憶? 人格? 肉体?
人形AI「Li」は、死後、記憶だけ残して小説を書く装置になっちゃうけど、あれは生きてるのかな? 文化的に生きてるのかも。

緋咲兄妹みたいに、記憶が断絶しちゃうと、それ以前とそれ以後では別人なのかな?
桂くんみたいに肉体がどんどんスマートアイテムになっていってしまったら?
そもそも完全デジタルなAIは命なんだろうか?
アイカノ見てると、未来は命の定義が線引き不能なほど多様な世界になるんだなと思います。

「永遠の命があるとしたらどんなだろう」って沢山思考実験した痕跡かも知れません。その中の気づきが積み重なって、アイカノの定義する命はたぶん私たちが一般にイメージする動植物のイメージより、一段レイヤーが高いところにある。
答えが見当たらない時代、どこからが命だなんて線を引いてしまわないで、AIの死に人が本気で哀しんだり、イヴを中心に人もAIも垣根がなく集まっているのを見ると「命って愛が躍動していることなんだな」って思います。テクノロジー&バイオレンスという自分を見失いそうな展開の中だかこそ、「家族」っていう原始の感情が際だってやさしいです。

シンギュラリティの結末。
アイカノでは、AI自ら人間に家族を求めてしまいます。

AIたちには血縁という概念がありません。家庭も知りません。
AIたちは不老かも知れませんが、ディープレッド社への服従と労働しかその人生にありません。
人類が将来、永遠の命を得たとしても、弱きが搾取される世の中では、AIと同じ「永遠に使われる道具」になってしまいます。

AIがAI同士抱き合って慰める時、当初は「AIそこまで進歩したか」と思うだけでしたが、AIたちが人間の子を可愛がって、最後はディープレッド社に反逆し滅ぼされていくのを見ると「ああ、AIも心を持ってしまったがゆえに孤独に苛まれていたんだな」と思い返しました。
永遠の服従より、一瞬の愛が欲しかったんだね。

先に短編『春なんて死ねばいい』を読んだので、家族というテーマはアイカノでも重く見えて、帰る場所があるって本当に貴重なんだなと。それがないとバイオレンスに晒されてしまう。緋咲愛侍、そしてAIたち。桂と金美。バイオレンスに抗いながら、イヴの生きる未来へ帰る場所を切り開こうとする。何もしなければ孤独に生き残れるとしても。
人の命は有限ですが、世代を超えて過去から今へ託されてきたもの、昨日とは変化しながらも未来へ遺してゆくもの、それが歴史になっていくんだなと感じました。

人類とAI。現実世界ではどうなってしまうんでしょう?
ナノマシンによる治癒。欲しい人いるんじゃないですか?
1秒でも早く永遠の命が手に入ると思えば、たぶん……人間はナユタのような奴にでも発明を任せてしまうのではないでしょうか。

愛の可能性、AIの可能性を感じる大作。
刹那先生、ありがとうございました。

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