第3話 「聖女(仮)」の存在意義 2
げっそりと困り果てた表情をしている王太子に、アリアが質問を続ける。
「その本物の聖女様は、どのような方なのですか?」
「長い黒髪に色白で、とても美しい方ですよ。前の世界では『オーエル』というお仕事をなさっていたそうです。この一年間、とても熱心に聖女のお役目を努めてくださっていたのですが……。放棄なさったのは本当に突然のことで、
(先に来た人は、年上の社会人か。見た目も、まさに聖女様。つまり、栗色に染めた前下がりのミディアムボブの私とは正反対ってことね。でも『美しい』とか、見た目を聞いたんじゃない。人柄とか、そういうのを聞いたのよ)
アリアは、『聖女様はとても美しい方』云々をスルーして話を続けた。
「では、聖女様がお役目を放棄したから私が呼ばれた……と?」
「その通りです」
「一つ気になるのですが。先ほどのお役目の内容を伺ったところ、聖女様はこの一年間、かなりハイペースで国に貢献していますよね?」
「そうですね。それが聖女様のお役目ですから」
「それって飽きたんじゃなくて、疲れたんじゃないでしょうか? 燃え尽き症候群や抑うつ状態というか……」
王太子は意味が分からないとでも言うように首を傾げる。
「もし、心身ともに疲労が蓄積したことが原因であれば、少しお役目の量を減らしてみたらいかがでしょう? 少しずつでも気力が回復するかもしれません」
日本人は、他国の人に比べて勤勉だ。
慣れない土地で頑張り過ぎたことが原因で、スタミナが切れたのかもしれない。
しかし、聖女の状況を推測したアリアの提案は、王太子に一蹴されてしまった。
「そういうわけにはいきません。国の安寧のためには、全てのお役目を果たしていただかないと困るのです。それに、以前の世界では朝から夜遅く、『シュウデン』までお仕事をなさっていたとのこと。そのような方ですから、聖女のお役目も難なくこなせると思うのですが……」
「はぁぁ……」
アリアは両手を腰に当て、長い溜め息を
側にいた貴族らしい男性たちから「不敬だ」という声が聞こえてきたため、アリアは横目で睨んだ。
男性たちが、たじろぎ思わず一、二歩後ろに下がったことを確認してから再び王太子と向き合う。
「『ブラック企業の社畜OLが転移した先は、やっぱりブラックな王国でした。』とかのタイトルが付きますよ、それ」
「ブラック……、ですか?」
「過重労働を強いられることです。聖女と言えども、生身の人間です。ケガもすれば病気にもなります。突然死だってあり得ますよ。聖女様と直接お話をしてみないことには真相はわかりませんが、休息は必要だと思います」
「そう、なのですか?」
「そうなんです!」
王太子と国王は、顔を見合わせて困った表情を浮かべた。
まだるっこしい、とアリアは淡々と話を進めていく。
「えーっと、じゃあ、聖女様がお役目を放棄している間、聖女の力を持っているであろう私がお役目の半分、もしくは全てを請け負うという形で良いですか? 『聖女
「いいえ、少し違います。アリア様には、聖女様のやる気が出るように、ライバルの聖女になっていただきたいのです。アリア様がお役目を完璧に努めるお姿をご覧になれば、聖女様は悔しがって、またお役目を果たしてくださるのではないか……、というのが有識者の意見です」
「は? それ、むしろお
「なぜですか? 聖女とは敬われ、誉れ高い立場ではありませんか。もし、私が女性で聖女の力があれば喜んで代わります」
「聖人なら男性でもいらっしゃるのでは? いっそ、国内で探してみてはいかがですか? それに、王太子殿下も一度ポーションを作ったり、ご自身の魔力を試してみるのも良いかもしれませんよ? 異世界の人間に頼る前に」
苛ついたアリアは不敬だろうが何でも良い、と思いつく言葉を王太子にそのままぶつける。
アリアの怒りが頂点に達しかけたところで、背後の扉が突然開いた。
「ははは、
「父上! また、あなたは隠居とは名ばかりにフラフラと
「お前達が頼りないからだよ。自身の都合で退いた私が言うのも何だが、王位を譲るには早過ぎたか。アリア様に譲ったほうが、よほど良い国になったやもしれんな?」
リカードとは国王の名で、アーヴィンは王太子のことらしい。
先王がアリアの近くまで来ると、家臣たちが一斉に跪いて頭を下げる。
(さっきのおじいさん、先王だったの……?)
その事実に、アリアも目を見開いて固まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます