チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜
櫻月そら
第一章 異世界ものは大好物ですが、フィクションで間に合ってます。
第1話 テンプレ大好き女子が、異世界に召喚された場合
「おぉ……! 召喚に成功しました!!」
(なに? この、いかにもな光景……。私の大好物の異世界恋愛『召喚系』みたいな状況なんですけど)
この類のシーンは、今の時代ではよく見聞きするようになった。ただし、フィクションでだ。実際に体験したという話は、今のところ聞いたことがない。
「ようこそ、おいでくださいました! 聖女様
一目で身分が高いであろうことが分かる、白く長い顎髭を生やした
(今、『カッコ
少し向こうで倒れている、上等そうなローブを着ている男性は魔道師団の団長だろうか。ここからでは顔が見えないが、おそらくイケメンなのだろう。
そもそも、これは現実なのだろうか。
異世界恋愛のコミックスやアニメを観すぎて、夢を見ているのかもしれない。
幸い、今は夏季休暇中だが、大学を卒業するまではまだニ年近くある。
(もし、この状況が現実だったら休学届を出さないとまずいな。……いや、異世界にいたら出せないか。そもそも、異世界転移ってだいたい元の世界に戻れないよね? だけど、試してみないと分からない。とりあえず、早く話を進めないと……)
どんなに異世界恋愛ものが好きだとしても、別世界で生涯を終えるほどの覚悟はない。
「あの、私は
「アリア様とは! なんと心を震わせるお名前! 素晴らしい!」
「あの、だから、(仮)って……」
令嬢もの、転移に転生、何にしてもテンプレの異世界恋愛作品を楽しむことは、アリアの生活の一部だった。寝食と並べても良いくらいだ。
そのため、自分の身に何が起こり、この先どのように物事が進むのかということは十分すぎるほどに理解している。
聖女召喚のケースは、まずは名前を聞かれることが定石のため、先に名乗った。このあとは、この国の第一王子に手を取られながら、「魔獣から国を守るために、瘴気を浄化してほしい。そのために聖女を召喚した」などと説明を受けるのだろう。
そのあたりはよく知っている。だから、早く話を進めたいのだが、『聖女(仮)』ということだけは引っかかる。
「あの! 本当に! (仮)ってどういう意味ですか!?」
アリアは先ほどよりも、少し大きな声で問いかけた。
「さぁさぁ、こちらに。国王陛下ならびに王太子殿下がお待ちです。まずはお召し替えをいたしましょうか」
先ほどの年配の男性がそう言うと、スッと二人のメイドが現れ、気づけば浴室で
その間にも『聖女(仮)』について何度か尋ねてみるが、誰も答えてはくれない。
(人の話を聞かずに、物事を進めるところまでテンプレか)
アリアは舌打ちをしそうになったが
(自分でも『仮』って言っちゃったよ。言葉の使い方は違うけど)
はは、と一人で
軽く化粧もされて身なりを整えたアリアは、多くの近衛騎士に囲まれながら長い廊下を歩いた。最奥には大きな扉が見えている。
おそらく扉の向こうは謁見の間で、玉座に腰掛けた国王と王太子がアリアの到着を待っているのだろう。
ここまでは想定済みだ。
しかし、今度こそ『聖女(仮)』の意味を聞き出さなければいけないと、腰の高さで重ねていた両手にギュッと力を込めて背筋を伸ばした。
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