Ex...プレゼントのゆくえ
駅前から広場まで輝くイルミネーションを見ながら歩いてきたのに、あまり記憶に残っとらん。うれしそうな夏海ばかりを見ていたせいだ。
広場の中央には、積み上げられた木材が塔のように積み上げられていた。地震を受けたジェンガーのような隙間から明かりが漏れでている。ツリーを模しているのだろうけど、キャンプファイアにしか見えんかった。
きれいだね、と言われたので、頷いておく。灯りを受けた夏海は光以上に輝いていたし、あながち間違っとらん。そういうことにしておく。
クリスマスマーケットを見つけた夏海の目はさらに輝きが増した。手をつないでいたら、間近で見れたのに、と意味もなく手の平を眺める。
「クラムチャウダーだって、音無くん、お腹すいてる?」
「好きなん?」
「うん!」
意識して言ったのに、彼女は全く気にしとらんかった。あげくには、袖の先を引かれ、驚きすぎてたたらを踏んでしまう。
ぱっと手が離れて、買ってくるねと視線を泳がせた夏海が逃げた。
もったいないと追いかけた目は注文する彼女を映す。楽しげで、なんだか眩しい。
ただ待つのも手持ち無沙汰で、落ち着ける場所を探した。何処のベンチも恋人だらけ、例に漏れず石垣に座る人々も判子を押したようだ。石垣の端が空いていたので座る。夏海の所からもよく見える場所なので大丈夫だろう。
ちょうどいいし、ここでプレゼントを渡そうか……喜んでくれるといいけど。鞄の中から取り出しとると、目の前に紙コップが現れた。
「はい、カフェオレ。よかったら」
「ありがと」
夏海は周りに気を使ってか、くっつきそうな距離で横に座った。
しばらく黙ってカフェオレとクラムチャウダーをそれぞれ味わう。凍えた体が中からほぐれていくようだ。
あのね、と夏海が吐息をこぼす。
「遠慮したくない関係にはなりたいんだけど、音無くんには音無くんの考えがあると思うの。だから、無理に付き合わなくてもいい、と、思って、ます」
「なんで敬語」
ふ、と笑うと、夏海も笑った。
「緊張するの。音無くんといると心臓もたないから」
「俺は幸せだけど」
「そーゆーとこ!」
思わず声を上げた夏海はすぐに恥ずかしそうにちぢこまった。周りを見て、俺の方をちらりと確認して、とつとつと言葉を選ぶ。
「大切にしてくれてるんだろうな、てわかったけぇ、その……だから、付き合わなくても、大丈夫、だよ?」
返事を待つ横顔はちっとも笑っていなかった。
『大丈夫』なんて、遠慮しているのと同じだ。夏海らしいというか、何というか。キスしよって言っただけで、泣きそうになるのに。まだ付き合いたいと思ってくれるところが愛しい。
我慢しよう。やろうと思えばできる、はず。自分に言い聞かせて夏海の右半分にくっつく。
「俺、夏海が恐がらないよう、頑張るからさ。付き合おうよ」
「……緊張するだけだし」
なぜか強がる彼女の腰に手を回した。ほら、体が固くなってる。
「今、抱きしめても心臓大丈夫?」
「うぅ」
「でしょ?」
うぅ、と背を丸める夏海の頭に自分のを乗せた。どこのシャンプーか聞いたら大変なことになりそうなので、付き合い始めにふさわしい言葉をかける。
「遠慮せんでな」
夏海は頷くのを感じて、うかれてしまう。
「夏海が触ってくれるんは大歓迎だから」
そーゆーとこぉ、と夏海が両手に顔を埋めた。
しばらく、隣の体温と幸せな時間を時間を噛み締めて、プレゼントのことを思い出す。鞄を探っていると、少し夏海が顔を上げた。不思議そうにする顔の前に手の平サイズの紙袋を差し出す。
「はい、どーぞ」
「いいって言ったのに」
「まぁ、そう言わず」
おずおずと出てきた手が俺のに触れて、少しびくついた。離れることもなく、逃げることもなく受け取ってくれる。開けるかどうか悩んでいることが、ありありとわかる顔。
「開けていいよ」
じゃあ、と夏海は大切に大切に紐といていく。
中から出てきたのは、ハリネズミとシロクマの置物だ。それぞれ、キノコや魚のクリップを持って、札がはさめるようになっとる。プランターの花の名前を書く仕様なのだろうけど、机の上にもちょうどいいだろうと思った。なにより、これを選んだ理由もある。
「音無くんとわたしのスタンプに似てるね」
夜なのに、輝いて見えるのは目の錯覚なんかじゃない。大切にする、と言った顔は俺が見たいものそのものだった。
「ねぇ、音無くん。わたしからもプレゼントがあるっていったら、受け取ってくれる?」
「それはどういう遠慮なん」
「……そっか、遠慮しなくていいんだ」
ゆっくりと笑みが広がって夏海の鞄から、小さな包みが出てきた。
「ちょっと、音無くんとかぶっちゃった」
ころんと落ちてきたのはシロクマが寝そべってる、マスコット……?
「それね、本当は箸置きでね、筆置きにもいいかなって、でも、白いからすぐに汚れちゃうね」
俺の反応がイマイチだったせいか、夏海は早口に言った。
「大事に飾っとく」
「使っていいよ?」
「飾っとく」
真剣に言うと、夏海はくすぐったそうに笑った。ひとしきり笑って、ふと視線が泳いだかと思うとちらりとまた見られる。何を悩んでいるんやろ。
「あの、ですね」
「はい、何でしょう」
敬語なん、と夏海は力を抜いて、でも迷う素振りを見せた。少し怯えたように、こっそりと教えてくれる。
「アクセサリーいらん、みたいなこと言ったけど、音無くんがくれるならちゃんとつけたいけぇね」
嘘ついちゃった、という言葉は耳に入ってこんかった。
(꜆ ˙-˙ )꜆♡
音無くん視点の出会い編?はこちら。
『恋に奥手な音無くんと』
https://kakuyomu.jp/works/1681733
夏海さん視点の夏のお話はこちら。
『音無くんの溺愛はつたない』
https://kakuyomu.jp/works/16817330659568000788
よろしければ、お立ち寄りください(_ _)
愛を知りたい音無くんも #アドベントカレンダー2023 かこ @kac0
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